高知県の物部川は、白髪山を源に71キロを流れ、土佐湾へ注ぐ県内主要河川だ。この水系には上流から永瀬、吉野、杉田の3つのダムがあり、いずれも高知県が管理している。近年、上流域で発生した大規模な崩壊や土石流によってダムの堆砂が進み、濁水の長期化や流れの変化など、川の環境への影響が課題として浮上している。

こうした課題に対し、流域全体で「自然・環境の保全と再生」に取り組もうと、 2001年に民間団体などが集まって「物部川21世紀の森と水の会」が設立された。現在に至るまで、河川や森林、海岸の調査、データ化などを行っている。

ウオッチドッグ編集部は7月3日から5日にかけ、物部川漁協の松浦秀俊組合長の案内で物部川流域を回った。松浦組合長が危惧している物部川の現状について、漁協だけででなく、森林組合、商工会、土地改良区などが「森と水の会」の会員となり、行政、大学や広範な流域住民組織と連携し、勉強会や協議を重ねているという。

「河川の問題は流域ぐるみの総意でやった方がよいですよ。物部川は『課題先進河川』です。流域みんなで取り組んでいます。この組織の設立に奔走したのが、前々組合長の岩神篤彦さんでした」

漁協の組合長室で、「森と水の会」が発行する資料や冊子を受け取り説明を受けた。

「川の問題は山の問題でもあります。濁水問題で言えば、火元(山の課題)を見なければ大火事(川の課題)になります。物部川上流の森林問題に長年取り組んでいるのが、『三嶺の森をまもるみんなの会(2007年設立)』の代表、依光良三さん(高知大名誉教授)です」

「森と水の会」の会報誌によると、物部川源流の三嶺の森には、原生林を含む高知県下最大の自然林がある。かつては公益機能の高い「盤石の森」と呼ばれていたが、シカの食害によって下層の植生が食い尽くされボロボロの森に変貌した。その影響で豪雨の度に山肌が崩壊し、激しい土砂流出も進行したという。

松浦組合長から「課題先進河川」と聞いてもイメージが湧かなかったが、現地を取材する中で「複数の課題が先進的に顕在化した水系」ということが徐々に見えてきた。

森林水文学を研究している蔵治光一郎氏(東京大学教授)が、『豪雨時代の森林管理』(2025年3月・物部川21世紀の森と水の会発行)の中で「物部川というところは非常に先進的な地域です。先進的なというのは課題も多いということと裏腹である」と記している。課題が多いからこそ、流域それぞれの個人、団体がおのずと立ち上がり、連携しながら対応しているのだろう。

「『いごっそう』でないと」。この取材中と松浦組合長が何度も口にしていた。「いごっそう」は土佐弁で「頑固で信念を曲げない人」を意味するらしい。

困難な課題を前に意気消沈したり黙してるだけでなく、1人ひとりが「いごっそう」となり立ち向かうのが、物部川流域に住む人たちの姿のようだ。

2026年7月4日に物部川上流の山崩れ工事現場を視察した。

今回のウオッチドッグ編集部の取材には、地域ニュースサイト「News Kochi」の依光隆明記者が全面協力してくれた。

News Kochiは2025年、「三嶺の森をまもるみんなの会」の代表、依光良三氏を取材し、物部川上流の「シカ食害」について取材、詳しく発信している。物部川上流の山々で何が起きているのか、詳細が報じられているのでせひ、読んでください。