高知県の一級河川・物部川の上流山脈の尾根に巨大な風力発電機36基を造る計画があると、昨年2月24日にNews Kochiが報じた。ちょうど同年、徳島県の一級河川・那賀川と上流の山々の荒廃を取材していたウオッチドッグ編集部は、物部川の現状を知りたくなり、News  kochiに取材協力をお願いした。

物部川漁協の松浦秀俊組合長の案内で、今年7月3日から3日間、物部川や上流の山々を取材した。

地元団体や漁協が国とも連携しながら、「近自然工法」を取り入れ、物部川再生に取り組み始めた。その最中の2024年、巨大風力発電機を上流の山脈尾根に造る計画を知ったという。松浦組合長は呆れ顔で業者の計画を説明してくれた。

「巨大風車は180メートルの高さがあります。巨大風車の羽を大型トレーラーに載せて運べる道路がないので、国道を改修し新たにバイパスを作る前提です。こんな巨大な造作物を山の上に作ったらどうなるのか」

News Kochiの記事が、その規模感を伝えている。

漁協が入手した同年10月の住民説明会資料によると、事業所は徳島県阿南市にある資本金8,400万円の株式会社。松浦さんが驚いたのは風力発電の規模で、高さ180メートル、ローター直径130メートルの巨大風車を36基並べる計画になっていた。場所は香美市と大豊町にかけて屹立する山脈上の尾根で、配付資料地図では近隣に香美市香北町河野、猪野々、大豊町南大王、北川、柚木などの地名が見える。(2025年2月24日付・News Kochiの記事より)

鷹さ180mの巨大風力発電機36基の計画
広い道幅が必要な風車部品運搬車

環境省はかつて、実際に風力発電所を設置した風力発電所の設置事業者や、地元の都道府県・政令市を対象に「風力発電所に係る環境影響に関する懸念等の発生状況」をアンケート調査を実施したことがある。2010年12月22時点で、384事業のうち250、47都道府県、18政令市から回答があったとしホームページで結果を公表した。
資料2-1 風力発電所に係る動物、植物及び生態系に係る問題の発生状況

その資料を元に松浦組合長は、自然環境への影響と土砂流出の懸念についてさらに言葉を続けた。
「今日(7月3日)永瀬ダムの下流に、きれいな水の出口を見たでしょう。あそこの尾根筋に風力発電機が建つ計画です」

山々から透明なきれいな水が物部川に流れている光景を見た。支流のきれいな水は、物部川の濁流と混じっていた。山々の尾根に巨大風力発電機が建ったら、このきれいな水も、土砂で汚れてしまい、濁流の長期化がさらに続くと容易に想像される。

物部川に関する過去の報道を調べていたらこんな記事が見つかった。

巨大風力発電機が立つ予定地、香美市香北町出身のやなせたかしさん(「アンパンマン」の作者)が1998年10月1日付の朝日新聞の夕刊で、次のように語っている。

抜粋して紹介する。

旅の風景 物部川 「ターザンのような子供だった」

ぼくの故郷は高知県香北町である。山峡の過疎の町で、人口は五千八百人、町の中央を縦断して物部川が流れている。(中略)
しかし故郷の町にアンパンマンミュージアムを1996年の7月にオープンしてから頻繁に故郷へ旅するようになった。
そしてあらためて、故郷の良さ、あたりの自然の美しさに気づいた。
物部川には現在、ダムができていて渓谷の半分は水面下に隠れているが、ぼくの子どもの頃は急流だった。
夏はこの川で泳いだ。それは相当に危険な遊びだったが、ぼくらは危険ともなんとも思わなかった。川へ降りるためには渓谷の断崖を降り、またよじ登るのである。
ほとんど全身すり傷だらけだった。
ターザンの映画を見た時、あれに似ていると思った。
ワニや河馬やチンパンジーもいなかったが、木から木へとびうつったりするようなことはしていた。
木の枝が折れて地面に落ちて気絶したこともある。
今はこのあたりの子どもたちも川遊びはしない。プールで泳いでいる。
しかし物部川の岸の風景はほとんど変わらない。昔と同じである。北岸と南岸にわかれるが、北岸の方を山の方へわけ入れば四国山脈になる。
ほんの少し入るだけで秘境に近い原生林を見ることができる。

取材中の松浦組合長の言葉が耳に残っている。
「高知の昔の人は、山にいけばなんとかなる、川にいけばなんとかなる、で生活していました。山の幸、海の幸が豊富で十分に自活できていました」

「『国破れて山河あり(※漢詩)』という言葉がありますが、このままでは『国破れて山河なし』になってしまいます」

やなせたかしさんが愛した物部川と山々はどうなっていくのだろうか。次回につづく。