米国の農村地で、発行部数わずか3000部の小さな新聞社が、優れた報道などに贈られるピュリツァー賞を受賞した。NHKの国際報道(2017年7月24日)によると、受賞したのは、米国の小さな新聞社「ストームレイク・タイムズ」の調査報道。自治体と巨大産業との癒着を暴いた。さまざまな障害に直面しながら、いかにしてジャーナリズムの原点を貫いたのか。

米国の小さな町の新聞社が示すジャーナリズムの原点

https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2017/07/0724.html

場所は米国中西部、アイオワ州ストームレイク市の人口1万人余りの街。新聞社は、編集長のカレンさんんと妻と息子など4人と、社員あわせて10人と小さい。この新聞社がやっているのは、「地域密着」と「事実を重んじる独立した報道」で、どんな小さな話題もくまなく取材するという。

受賞したのは、地域の水質汚染について、10回にわたって掲載した社説。NHKの国際報道は次のように伝えている。

この地域では、長年、畑で使われる化学肥料が川や湖に流れ込み、水質汚染が問題となっていました。
2年前、川の下流にある水道会社が、ストームレイク市のある郡に対して、水質汚染の対策が不十分だと裁判を起こしました。
弁護士費用など、裁判にはどれほどの税金が投入されるのか。
自治体に問い合せたカレンさんに、予想外の答えが返ってきました。

ストームレイク・タイムズ編集長 アート・カレンさん
「“裁判費用をどうするのか?と尋ねたら、“我々の友人が払ってくれる”って言うんだ。それで“友人とは誰か?”と尋ねたら、“それは言えない”と言うんだ。」

自治体が関わる裁判の費用を誰かが肩代わりするのに隠すのはおかしいと考えたカレンさんは、取材を始めました。

農業関係者が多いため関係者の口が堅く、事実がなかなか明らかにならなかったという。それでも、カレンさんは連載を続け、重要な情報を入手。地元の農業関連企業の団体が、裁判費用をまかなうため秘密の基金を設立していた。その基金に多額の寄付をしていたのが、大手肥料メーカーで、カレンさんらは疑惑を追及した。自治体と肥料メーカーの癒着が明らかになり、肥料メーカーから自治体への資金提供がストップしたという。

「私たちがやったことは、後ろ暗い、汚い金を裁判から追放したことだ。政策を肥料メーカーが決めるのか、地域の農業者が決めるのか、そこが伝えたかったポイントだ。報道機関はこれまで以上に真実のために戦わないといけない。人々は誠実で確実なことを求めている。報道機関もその期待に応えるべきだ」。カレンさんは、NHKの記者の取材にこう答えている。

NHK国際報道は、次のようにまとめている。

今、インターネットで記事が読める時代に、アメリカの地方新聞の多くは経営が苦しくなっており、経営破綻するところもあります。
地域から新聞がなくなり、行政の問題が指摘されず、チェック機能が働かなくなったり、地域の話題や問題が伝えられなくなったりしています。
その中で、地域の問題をきちんと事実に基づいて伝える「ストームレイク・タイムズ」は、アメリカの、いわば草の根のジャーナリズムの健在ぶりを示したと受け止められています。