徳島県那賀町で町議会議員として活動している重陵加さん(43歳)は、流木群とダムで行き場を失ったように泳いでいる魚を指差して「今、森林と水が大変なことになっています」と嘆いた。
徳島県那賀町は、「アンパンマン」作者のやなせたかしの生まれ故郷である高知県香美町と隣接している。2025年6月時点の人口は、6,897人(高齢化率は56.1%)で、森林面積が町全体の95%を占めている。主要な産業は林業だが、木頭の柚子も特産品として有名だ。その森林豊かな県で、環境荒廃の現実が浮かび上がってきた。
取材の発端はというと、京都・市民・オンブズパーソン委員会の代表、折田泰宏弁護士からウオッチドッグ記者に「徳島県那賀町の山を見てきてほしい」という求めがあったことから始まる。そこで、ウオッチドッグ記者が、7月上旬に徳島県を訪れた。折田弁護士は、1976年の「琵琶湖総合開発工事差し止め訴訟」の原告側弁護団の団長を務め、琵琶湖の環境保全に大きく寄与した弁護士でもある。環境問題に詳しい弁護士なので、日本全国から環境問題の話が舞い込むという経緯で、ウオッチドッグ記者が徳島県まで足を延ばすことになった。
徳島県那賀町の森林面積は、総面積の95パーセント

~『林野庁』R2.2.5 森林シューセキ!事例報告会より~
2020年の検討会の資料によると、森林面積は65,958haで、総面積の95%を占めている。その内、民有林面積は93%で、うち人工林は77%である。
土砂の堆砂量が増大、ダム計画の見積もりの甘さ
徳島駅から風光明媚な景色を見ながら車で走ること2時間。那賀町の小見野々(こみのの)ダムに到着した。小見野々ダムは一級河川の那賀川に1968(昭和43)年に建設された発電目的アーチ式ダムだという。元々の計画では堆砂量は6,937千m3だったが、2021年時点の堆砂量は9,970千m3で1.4倍の量がダム底に埋まっている。那賀川は、その源を徳島県那賀郡の剣山山系ジロウギュウ(標高1,929m)に発して、幹川流路延長125kmの大きい河川である。ちなみに、9,970千m3の堆砂量は、東京ドームの体積(124,000㎥)の8個分にも及ぶ。
その那賀川の上流から土砂や流木が、小見野々ダムまで流れ着いていた。集まった流木の側で、ダムの先に行けない魚がとどまって泳いでいる様子もみられた。
町議会議員の重さんの説明によると、ダム建設当初の計画通りには行かなかった。土砂の堆砂は年々増えて、小見野々ダムの補償対象外だった土地が新たに浸水する事例が増えてきている。しかし、補償については、住民らは四国電力とも那賀町とも合意形成がされていないという。住んでいる人たちは泣き寝入りするしかない状態という。



森林の皆伐ではげ山へ
「上流地域の山々も見てください。驚く光景ですから」と重議員にさらに案内されたのは、那賀川上流の高の瀬峡にある変わり果てた山々の姿だった。
「これが皆伐(※森林などの全部の木を切ること)です」
重さんの説明によると、写真撮影したはげ山は、民有地の山で、那賀町内の製材業者が立木を購入して、隣りの高知県の事業者が伐採を請け負ったという。「皆伐」面積は30haに及んでいる。皆伐すると土壌の乾燥が進み崩壊しやすい。請け負った林業事業者は効率性から皆伐しているが、造林育成の視点が乏しい事業者だったという。今後、さらなる皆伐による大規模な伐採が懸念されるということだった。
はげ山になった森林から土砂や木材が川に流れ落ち、川の姿が変わり水の流れが淀んでしまう。「徳島県だけでなく、日本全国の山々で同じようなことが起きていると思います」と重さんは話した。

(ウオッチドッグ記者撮影)


豊かな森ときれいな水を残したい
重さんは、那賀町の山や川を周り、綿密に調査した資料をウオッチドッグ記者に渡し、資料の説明をしながら、なぜ、このような調査を始めたのか、その理由を話してくれた。
「木が育つのに時間がかかります。若木を植えても、今度は(動物の)シカが食べてしまうため、シカが食べない木だけが残っています。皆伐でなく間伐、そして造林が必要です。皆伐による伐採は、土砂や洪水の災害をひき起こします。子どもたちのために、豊かな森ときれいな水を残したいです」
そう話す重さんの目の前には、はげ山となった山々の姿があった。




「森と水」は、今後、シリーズで展開します。
