徳島県那賀町の森林と河川が荒廃の危機にある。この問題で、一級河川の那賀川に建設された小見野々(こみのの)ダムの影響で、土砂が溜まり川床が上がっていることを「森と水№1」の記事で取り上げた。さらに巨額の費用を使い、ダムや川に溜まった大量の土砂を取り除くため、小見野々ダムより下流に位置している長安口(ながやすぐち)ダム近くにダンプカーで運搬し、積み上げ続けていることが分かった。国土交通省・四国地方整備局は不毛な“マッチポンプ事業”を延々と行っている。いつまで続けるつもりなのか。
那賀町議会議員の重陵加さん(43歳)の案内で現地からレポートする。
下の図は、重さんが作成した那賀町の地図で、取材場所のポイントが記されている。

地域おこし協力隊から町議会議員へ
「初めまして」
待ち合わせ場所にした徳島県那賀町の「道の駅 もみじ川温泉」で、町議会議員の重陵加さんと会ったのは、7月5日の午後だった。もみじ川温泉は、重さんから渡された地図のほぼ中央、緑色の文字で「相生地区」と書かれた枠の下あたりの場所で、川口ダムの近くにある。例年より早い梅雨明けで、真夏のような暑い日差しが感じられる。重さんは、小さな子ども3人を育てながら議員活動をこなしている。午前中に子どもを連れて近くの森林で昆虫取りをした後に、ウオッチドッグ記者が到着するのを待っていてくれた。
重さんは元々、滋賀県大津市出身。大阪外国語大学(現・大阪大学) 外国語学部 ・国際文化学科を卒業後、京都大学大学院 ・人間環境学研究科 の修士課程を修了している。京都でそばを使った飲食・菓子製造業「SOBACafeさらざん」を創業したという異色の経歴を持つ。2020年4月、学生時代に日本全国をバイクで旅した時に魅了された那賀町木頭へ移住し、地域おこし協力隊として活動を始めた。2021年に第3子を出産し、2023年4月23日に行われた那賀町議会議員補欠選挙で初当選を果たした。

河岸の巨大な置き土を見た
「見ていただきたい場所があります」。落ち合った「道の駅 もみじ川温泉」がある相生地区から、西隣りの上那賀地区へ向かう。那賀川添いの道路に沿って運転する重さんの軽自動車を、レンタカーで後追いしながら長安口(ながやすぐち)ダムの下流側に位置する長安吊橋に着いた。その吊り橋から上流側に、巨大な長安口ダムの姿が見えた。放流されていないので、川の水は流れていない。河川は砂砂利の横に少しばかりの水が残っている状態だった。河川の流れが止まっていた。
長安口ダムは、一級河川那賀川の中流部に位置し、徳島県の那賀川総合開発事業として1955(昭和30)年に建設された多目的ダムだ。

長安口ダムを視察した後、車に乗り、下流に向かって川沿いの道を進むと小浜大橋に到着した。小浜大橋から、下流側の河岸を見ると、そこに広がっていたのは巨大な置き土の光景だった。重さんが渡してくれた地図の①の位置にある。
置き土の河岸より上流にあるダムの堆砂や那賀川本川の土砂をシャベルカーで掘っては、ダンプカーで運搬し、設けた置き場に土砂を積み上げる。この作業を延々と繰り返してきた。何年も続け、このような(下段写真の)砂の高さになったという。この河岸は際立って人工的だ。

自分で原因を作って自分で処理する事業に巨額費用
↓Googleマップより。視察で目にしたダムの名称は赤丸〇で囲んだ。重さんと待ち合わせしたもみじ川温泉(川口ダムと長安口ダムの間に位置)と重さんの事務所(木頭地区)の場所を追記し青丸〇で囲んだ。那賀川はこの地図の左から右へ、つまり西から東へと流れ、阿南市への河口へとたどり着く。その間にダムが点在している。

「森と水№1」の記事で取り上げた小見野々ダムの堆砂が、下流の長安口ダムの堆砂になる。長安口ダムの堆砂がさらに、東に位置する下流の川口ダムの堆砂となって積もる。「ダム→堆砂→置き土」→「ダム→堆砂→置き土」→「ダム→堆砂→置き土」と繰り返し、同じような問題が生じている。
自分で原因を作っておきながら、自分で処理しようとする。
「まるで、マッチポンプ事業のようですよね」と重さんがぼそりとつぶやいた。このマッチポンプ事業に巨額な費用が費やされている。
「この置き土は河岸だけではないんですよ。明日は別の場所を案内します」と話し、小見野々ダムを視察した後、さらに上流側にある重さんの事務所に向かった。
翌日(7月6日)は、さらなる置き土の光景を目の当たりにして愕然とすることになった。続きは次回に。
