ウオッチドッグ記者は、2025年7月5日から7日まで、徳島県那賀町の町議会議員、重陵加さんの案内で那賀川にあるダム、上流の森林や河川を視察した。重さんにはこの時に初めて会った。驚いたのはその調査力だ。
昨年11月には折田泰宏弁護士(けやき法律事務所)や大学教授ら一行が那賀町を視察している。その際に重さんが配布した資料は計19頁。次のように番号が振られ、項目ごとにまとめられていた。
①長安口ダムと置き土、②平谷国道崩落、③小見野々ダム、④助の河床掘削現場、⑤歩危峡、⑥川切地区、⑦黒野田の土捨て場、⑧高の瀬の皆伐現場、⑨久井谷の連続砂防ダム、⑩橋本林業
重さんが地道に地域を周り、写真を撮り、国の資料などを元に数値データを集め、それぞれの課題をまとめた資料だった。柔和な姿と話し方からは想像がつかない、調査への執念と、那賀町をなんとかしたいという熱い思いが伝わってくる。
ウオッチドッグ記者撮影(2025年7月7日)

大津市出身、徳島県那賀町へ移住、そして町議会議員へ
重さんは滋賀県大津市出身だ。なぜ、大津市から徳島県那賀町の木頭地区に移住したのか。視察最終日の7月7日に、重さんの事務所で、視察した場所を地図上で確認しながら、疑問点や取組みなどを質問してみた。
議員研修誌の「地方議会人・2025年6月号」には詳細な経緯が掲載されていた。その内容を補足しながら重さんが説明をしてくれた。
「大学の頃、教えてくれた教授の影響もあったのですが、農山村をこのまま衰退させていいのかという思いが募り、バイクで日本中を旅しました。一番最初に訪れたのが徳島県那賀町の木頭でした。木頭の魅力が忘れられなくなり、2020年4月に移住を決意しました。移住にあたり、地域おこし協力隊(※総務省が所管・過疎化地域への貢献活動がミッション。任期1年~3年)のメンバーとなり活動を始めました。特産品の木頭ゆずの過疎化による放任問題や、鳥獣害対策、学習支援、孤立集落の聞き取りを行いました」
「その後、第3子を徳島県で出産して、子育てに奮闘している最中の2023年に町長選があることを知り、開かれた政治のため『公開討論会』の実施を思い立ち奔走しました。当時、育休から地域おこし協力隊の業務に復帰したばかりでしたが、この公開討論会を実現するため、協力隊の仕事を辞めました。そしてちょうど町長選と同じ時期に、町議会議員の補欠選挙があることを知り、自身も制度や仕組みづくりに取り組みたいという思いが強まり、議員に立候補しました」
さらに現在は、学問を施策に生かしたいという思いから、徳島大学に在籍し地方行政について学んでいるという。重さんの調査資料を読む限り、2023年4月に町議になる以前の地域おこし協力隊の頃から、地域の課題に真摯に取り組んでいたことがわかる。
孤立集落と柚子の鳥獣害被害、住民からの聞き取り調査
森と水№4では、那賀町木頭の蝉谷に向かう道中の河川について記事にした。杉の巨木を見る目的で蝉谷神社に向かったが、重さんが途中、どうしても寄りたいところがあると言うので、蝉谷集落の住民の家に立ち寄った。いわゆる孤立集落の住民である。重さんは90代の住民に声をかけ、近況について聞き取りをしていた。この住民は、山中で柚子の木を育てているが、シカによる被害があり若木にネットを被せて対策をしているという。住民とやりとりをしている姿から、重さんが孤立集落の住民に普段からよく関わっていることがわかった。
ウオッチドッグ記者撮影(2025年7月6日)

自伐林業の取り組みも調査
重さんが作成した調査資料には、那賀町で自抜林業をしている「橋本山林」の取組みも紹介されていた。ウオッチドッグ記者は、今回の視察で橋本山林の仕事ぶりを見ることはできなかった。2024年11月に視察した折田弁護士らの一行は橋本山林の取組みを見たという。一行のメンバーで京都大学名誉教授で理学博士の内海博司氏による視察レポートを抜粋して、「橋本山林」の取り組みついて紹介する。那賀町の森林にとって何をしたらよいのか、今後も重さんの調査は続く。
~徳島県那賀川の多目的ダム(長安口ダム)による土砂の堆積問題と皆伐され丸裸になった山々の視察に参加して~ 京都大学名誉教授・内海博司氏の視察レポートより抜粋
3日目の朝に、明るい話を視察した。橋本忠久・延子夫婦で、森林を自分の庭と考えて「自伐」林業をしている橋本山林(経済性と環境性を高い次元で両立させる自伐林業による多間伐施業の森)の視察であった。山は急勾配で杖を借りて登ったが、杉だけでなく落葉樹も残した山を維持されていて、素晴らしい山林である。作業道があることで、山歩きに慣れていない人や子供でも山の豊かさに触れることができ、ツツジや野生のラン、苔など、四季折々の美しさが楽しめる。林業と自然が調和する生物多様性豊かな美しい森である。樹齢は30年生から約150年生まれで幅が広く、どの森も200年以上を目指して展開している。樹高も高く高樹齢の森を維持させるためには、風、雨、光等の自然から植物生態系を守ることで対応している。尾根付近や林綾部で木材生産を維持させるためには風を防ぐ必要があるが、そのためにモミや広葉樹の多い天然林を残すことで強風が林内に入るのを防いでいる。
↓重さんの調査資料に、橋本山林の取組みが紹介されていた

