非営利の調査報道サイト「Tansa」による2026年2月20日付の報道で、ウオッチドッグ記者は、元共同通信社の記者・石川陽一氏が共同通信社を提訴した裁判で、自らの訴えが棄却されたことを知った。

石川さんの裁判は、要約すると以下の経緯である。

「表現の自由・報道の自由の侵害」を主張

石川陽一さんは共同通信社の記者として長崎市の私立高校で起きたいじめ自殺の問題を取材し、『いじめの聖域』を出版(2022年11月文藝春秋発行)。この本の中で石川さんは、長崎新聞社がいじめ問題を十分に報じなかったことを「黙殺」と批判した。長崎新聞社は共同通信社へ抗議し、共同通信社は石川さんに対し、著者出版の許可を取り消し、記者職から外す措置をとった。長崎新聞社は共同通信社の加盟社(ニュースの配信を受け、分担金を支払う関係)なので、共同通信社側は加盟社の意向に従い、自社の記者である石川さんを不当に扱ったといえる。その後、石川さんは共同通信社を退職。「表現の自由・報道の自由の侵害」を主張し、2023年7月に共同通信社を提訴した。

ウオッチドッグ記者

私立高校の「いじめ自殺」事件をずっと取材した若手記者が、自分の会社の共同通信社や同じ報道機関の長崎新聞社からいじめにあったということね。

石川さんへの「記者迫害」の実態をずっと取材してきたのが、調査報道サイトの「Tansa」だ。裁判を傍聴していた中川七海記者が、判決後に書いたのが次の記事だ。

「長崎新聞は公人ではない」「論評でも確認取材が必要」 大澤多香子裁判長が最高裁に反する判決 「報道の自由裁判」で元共同通信記者の訴え棄却 | Tansa

東京地裁が石川さんの訴えを棄却した理由は、石川さんが長崎新聞社への確認取材を怠ったからだとしている。長崎新聞社がいじめ自殺の問題を「黙殺」したことを、長崎新聞社に「なぜ黙殺したのかを取材しなさい」ということになる。報道しないメディアに対して、なぜ報道しないのかを取材しろという。長崎新聞社は政治家や芸能人と違い、公人ではないので確認取材をしなければならないという判決内容だった。

へぇ、東京地裁の認識では、長崎新聞社は公的存在ではないんだ。じゃ、どうして、長崎県も長崎市も、庁舎内の記者室を長崎新聞社に特別に使わせているのかなあ。庁舎の一部を記者室として賃借するのなら、行政財産使用許可書を出さないとダメなのでは?

ということで、2月下旬、ウオッチドッグ記者は長崎県庁と長崎市役所へ記者クラブの行政財産使用許可書について情報公開請求をした。3月上旬に、決定通知書が届いた。通知文はどちらも行政財産使用許可書は存在しないということだった。文書を保有していない理由として「行政財産の目的内使用としているので使用許可書は必要ない」ということだった。

長崎県へ情報公開請求/2026年3月5日 公文書不開示決定通知書
長崎市へ情報公開請求/2026年3月6日 非公開決定通知書 

長崎県庁も長崎市役所も、「行政財産の目的内使用」なので、使用許可を出さず庁舎の一部である記者室を、無償で記者クラブ側に提供しているんだって。その記者クラブのメンバーに長崎新聞も入っています。

長崎県庁も長崎市役所も、庁舎の一部を記者クラブに目的内使用として無償提供している。ということは、行政の業務遂行に必要な「公的機能」として扱っていることになる。長崎新聞社は記者クラブに属している。

報道機関は、行政情報を市民に伝える「公共的役割」を担っていると行政側は認識しているので、特別に庁舎の一部を特別な許可なく使用させている。いわゆる「準公人」扱いというのが行政実務の前提である。

しかし、今回の石川さんの訴えを棄却した東京地裁は、「長崎新聞は公人でない」つまり「公的役割を担っていない」と判断している。地元行政が、長崎新聞を公的機能の一部と認定しているのに、東京地裁は公的でないと判断した。

Tansaの記事によると、棄却の判決を受けて原告側の弁護士が「時代錯誤の判決」とコメントしていました。今の時代に、こんな判決が・・・とびっくりしたウオッチドッグ記者でした。石川さんが受けた「記者迫害」については、石川さん自身が単行本を出版本しています。ウオッチドッグでもおすすめ本として紹介しました。ぜひ、ご一読ください。

「いじめの聖域」を書いて「記者迫害」/若手記者を潰す報道機関の裏側/おすすめ本№7 – ウオッチドッグ