2019年12月5日付の朝日新聞と京都新聞が、佐藤健司県議の「迂回献金か」という報道をしていた。報道によると、2015年に、佐藤県議が懇意にしている産業廃棄物処理会社が、瀬田東支部(代表は佐藤県議)へ200万円を寄付し、そのうち、150万円を、自らの選挙資金のために支出していたという内容だった。

佐藤県議は、朝日新聞や京都新聞の取材に対し、「法的に問題ない」とコメントしていた。

政治とカネの問題に詳しい専門家らは、「選挙のための迂回献金だ」(朝日新聞)、「個人として寄付してもらえばよく、なぜ企業献金なのか疑問が残る」(同)、「違法性はなく、政界では一般的に行われている」(京都新聞)、「個々の政治家と企業が直接結びつくことで賄賂性が高まる」(同)、「政治資金規正法は実態とかけ離れたザル法。もっと厳格にしなければ政治とカネのあしきしきたりは断ち切れない」(同)とコメントしていた。

↓2019年12月5日付の京都新聞(デジタル版)
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/92815

ウオッチドッグ記者は、両紙の「迂回献金」という言葉を見て、迂回献金とは、どういう構造になっているのかを調べてみることにした。行きつけの図書館で検索したら、こんな本があった。2005年に東京新聞の取材班が全貌をまとめた「自民党 迂回献金システムの闇」(角川書店)

日歯連は都道府県に支部を持ち、業界団体や企業、個人から献金を集め、月1回程度、一定額たまると自民党に送金している。政治資金規正法は政党の政治資金団体を一つに限定しており、国政協は長い間、自民党の指定団体となっていた。
迂回献金とは、寄付する側が寄付先の政治家を指定して国政協に献金し、国政協から党本部へ送金された後、党本部から意中の政治家に金を渡してもらう方法だ。
特定の政治家に寄付しながら、政治資金収支報告書には国政協の献金として記載できるため、寄付する側が政治家の名前を明らかにしたくない場合、あるいは、政治家の側が献金の事実を知られたくない場合、迂回献金の形を取れば、それを隠すことができるという利点がある。また、献金の額が数百万円、数千万円と多額な場合、そのことを隠したい場合も有効な方法となる。それは、つまり賄賂のような不正資金の隠蔽に利用されるという重大な問題をはらんでいるのである。

「自民党 迂回献金システムの闇/東京新聞取材班」より(角川書店発行)

東京地検特捜部が、日本歯科医師連盟(日歯連)に対する2004年2月の家宅捜査で押収した資料により、自民党所属の国会議員(派閥、平成研)に1億円の闇献金した疑いが浮上した。自民党の重鎮議員(橋本龍太郎元首相ら)3人が、1億円の政治献金を受け取りながら、領収書を出さず、収支報告書に記載しなかったという。日歯連事件とは、最終的に、政治家20数人に関連した政治資金報告書に、2億円余りの不記載が見つかった中でも、1億円の闇献金は、金額が突出していたという。

2004年の日歯連の闇献金事件で、起訴されたのは、政治家では、村岡兼造元官房長官だけだった。橋本龍太郎元首相(当時の平成研代表)や、野中広務自民党幹事長(当時)、青木幹雄参院幹事長(当時)は、起訴されなかった。

政界への影響を考え、検察上層部は改造前(※内閣の改造人事)に捜査を終結するようにとの意向を現場サイドに伝えていた。「時間がない、とにかく時間がない」。特捜部の幹部はしきりに周囲に漏らしていたという。
「事件当時、平成研の事務総長だった野中と会長代理の村岡の2人を政治資金規正法違反の不記載で起訴したい」
地検サイドはこのころ、最高裁、東京高検と協議をした際、そう主張したという。しかし、上層部は「政治資金規正法という形式犯で、辞めているとはいえ、大物議員の野中と村岡の2人を起訴するというのはやりすぎだ。不記載への関与の度合いが高く、責任が重い方にするべきだ」とした。2人合わせた立件については認めようとしなかった。

「自民党 迂回献金システムの闇/東京新聞取材班」より(角川書店発行)

こうした及び腰の検察の姿勢に対し、「かつての首相が法律を違反している疑いがあるとすれば、司法の一翼である検察官は、おくすることなく掘り下げて捜査するべきだ」(「自民党迂回献金システムの闇」より)という声が、2005年1月19日に東京第二検察審査会で出て、「本件の不起訴処分は不当である」と議決されたという。

1億円の小切手を受け取ったことは明らかなのに、(授受があった)会食を否定する元首相に対し、検察の捜査は不十分だったと結論づけた。 元首相といえども本人の供述があいまいな以上、もっと事情聴取して解明に当たるべきだという主張は当然であろう。
検察審査会のメンバーは、有識者名簿から無作為で選ばれた一般市民が務める。審査の申し立てを受け、検察側に証拠開示などを求めて11人で協議。検察の処分が適切だったかどうかを一般市民の目から審査する。

「自民党 迂回献金システムの闇/東京新聞取材班」より(角川書店発行)

この議決に対し、3人の議員らの事務所は、「不記載については、関与していません」とのコメントに終始し、結局、自民党の頑強な反対で、うそを言えば偽証罪に問われる証人喚問はおろか、参考人招致すら実現しなかったという。

「政治は金になる」というのが、日歯連事件を通じて痛感したことだが、それは医療費が業界団体を通じて政界に還流していることにほかならない。窓口負担や保険料がアップするたびに、嫌な思いになる一般の人々の気持ちが分からないのか、と思う。でなければ、いくら政治家が献金を「浄財」と呼んでも、五百万円、一千万円というサラリーマンの年収かそれ以上の金を受け取る政治家の気がしれない。日歯連が政界にばらまいた金は毎年、7億円前後。そんな大金をみんなで分け合って、まともな政策判断ができるのだろうか。

「自民党 迂回献金システムの闇/東京新聞取材班」より(角川書店発行)

2004年に発覚した日歯連事件をきっかけに、2005年に、政治資金規正法が改正された。しかし、10年後の2015年にまたもや、日歯連の会長らが、自民党と民主党の議員ら2人へ「迂回献金」をしていたことが発覚し、逮捕される事件が起きていた。迂回献金のシステムにメスを入れない限り、こうした面々は、網の目をくぐり、何度でも繰り返す。

↓2018年6月27日付の朝日新聞「日歯連元会長に有罪判決 迂回献金「組織的かつ巧妙」
https://www.asahi.com/articles/ASL6V5R38L6VUTIL03W.html