ウオッチドッグは、明治のジャーナリスト宮武外骨の滑稽新聞の報道を紹介してきました。外骨こそ正真正銘の「ジャーナリスト」という共感を持ったからです。宮武外骨は、幕府最後の年1867年(慶応3年)に生まれ、明治、大正、昭和という激動の時代をジャーナリスト、著述家として過ごしました。そして、日本の敗戦から10年後の1955年(昭和30年)に没しています。時の政府より筆禍にあった数多くのジャーナリストたちの中で、昭和の戦後まで生きた稀有な存在といえます。明治政府の本性とその生み出したものを知り尽くし、末路を見届けたジャーナリストです。

外骨の晩年まで衰えない諧謔と批判精神あふれた鋭い筆致を目の当たりにできるのが、1946年5月3日(日本国憲法が施行された日で東京裁判の開廷日)に、御年79歳で発行した「アメリカ様」という著作です。

日本人の奴隷根性をあぶり出す、ジャーナリズムの記念碑的名著

占領という外圧によりもたらされた言論の自由は、結局外圧によって葬り去られることを明らかにする、ジャーナリズムの記念碑的名著。

「アメリカ様」は、2014年2月に筑摩書房から再販されました。筑摩書房の再販本の紹介文には「戦争にひた走った政府や無批判に隷従していった人々を痛烈に断罪しつつ、自らを『半米人』と名乗り、アメリカを褒め殺すことで、新たな主人にしっぽを振りはじめた日本人の姿を皮肉る。入獄4回、罰金・発禁29回という輝かしい記録を持つ外骨は、本書でGHQによる検閲・削除命令を受け、日米両政府からのダブル弾圧という栄誉に浴した」とあります。

「アメリカ様」というタイトルを見て、ウオッチドッグ記者は、「これは、外骨30代の時に書いた滑稽新聞の『明治発明家列伝』と同じだ」と思いました。ウオッチドッグは、宮武外骨「滑稽新聞」№5で、外骨が1901年に報道した「明治発明家列伝」の記事を紹介しています。

【調査報道の源流】「発明家列伝」で筆誅/詐欺の実態を暴く/宮武外骨「滑稽新聞」№5
「『維新後、さまざまな文物が輸入して、物事も改良に改良を加え、進歩に進歩を重ねているにも関わらず、新発見というものは、未だない。そんな中、大発明をした人物たちがいる。その大発明者の苦心と成功をまだ知らぬ馬鹿者もいるが、時が移り、この大天才家の偉業が消えてしまえば、惜しむべきことであるから、ご親切なる滑稽記者は、新たな項を設けて、各々の伝記を書いて、現代と後世における大馬鹿者どもに示すという趣向だ』。滑稽新聞で取り上げた大発明家たちは、人々を騙して金儲けをしている詐欺師の名前ばかり。痛烈な皮肉が記事に込められている」

「アメリカ様」の刊行は、この滑稽新聞の報道から45年。外骨の変わらない筆致が、書き続ける勇気と希望を与えてくれます。

度重なる筆禍を受けながらも、言論の自由のために、言論を使い闘い続けた宮武外骨。「戦前、戦中、戦後」を見続けてきた正真正銘のジャーナリストは、「アメリカ様」で何を書いたのでしょうか。数ある宮武外骨「本」の中から、今回は、「アメリカ様」をおススメします。冬の夜長に、どうぞ。

ウオッチドッグの宮武外骨「滑稽新聞」シリーズは、まだまだ続きます。2019年は、滑稽新聞紙上、最大の盛り上がりを見せた、<汚職警察官+大阪府知事> vs 滑稽新聞の大バトルを紹介する予定です。

次回の宮武外骨「滑稽新聞」は、1月9日(水)に発信します。お楽しみに。