ウオッチドッグは、9月2日付のおすすめ本№4で、元北海道新聞 報道本部次長の著作「真実 新聞が警察に跪いた日」を紹介したが、本の内容をそれぞれの項目ごとに追ってみようと思う。

◉内部告発

北海道新聞は2003年から1年半、北海道警察の裏金問題を報道したが、最初に報道したのは、2003年11月23日にテレビ朝日系列の報道番組「ザ・スクープ」だったという。

キャスターは、ジャーナリストとして名高い鳥越俊太郎氏。番組は「旭川中央警察署で捜査用報酬費が裏金になっている疑いが濃厚」と報じていた。
テレビ画面は、黒塗りのない会計書類を映し出していた。
情報公開請求すれば、公文書はあちらこちらが黒塗りにされて開示される例が実に多い。黒塗り箇所が多すぎて、開示請求の意味をなさないこともしばしばだ。
ところが、画面には黒塗りなしの公文書が映し出されている。つまり、それは開示請求で得られた資料ではない。テレビ朝日の取材スタッフのもとに、内部書類つきの告発があったに違いない。裏金問題を先に報道されたことも衝撃だったが、内部告発が地元最大のメディアである北海道新聞を飛び越し、東京の放送局に届いたことも輪をかけて衝撃だった。
(中略)
テレビ朝日に会計書類を持ち込んだ内部告発者は「北海道新聞に届けても握り潰される」と考えたのではないか。不正を厳しく追及する姿勢を常日ごろの報道で見せていれば、こういう内部告発は相当な頻度でそのメディアに届くものだ。目に見える形で権力監視の報道を実践していなければ、内部告発者はそっぽを向く。

「真実 新聞が警察に跪いた日」高田昌幸氏著/角川文庫

ウオッチドッグ記者は、「不正を厳しく追及する姿勢を常日ごろの報道で見せていれば、こういう内部告発は相当な頻度でそのメディアに届くものだ」という部分を読んで、過去を振り返った。「これは、偽造じゃないの?」と思った自治連合会の領収書を、県内のいろんな報道機関に情報提供しても、徹底的に調査してくれたところは、皆無だった。結局、ウオッチドッグ記者が、プライベートな時間に、自ら調査し、報道するしか道がなかった。あ~あ、今なら、どこへ持っていく?

◉支払先が架空

「ザ・スクープ」は、旭川中央署の書類に記載された支払い先がすべて架空だったと報じていた。書類上は金銭をもらったことになっている市民が、いずれも「警察から金をもらったことがない」と証言したのである。
旭川に走った北海道新聞の記者たちからは翌日、「確かにもらっていないと言ってます」「そもそも書類に記載された人物はとうの昔に亡くなっていました」といった報告が相次いで届いた。
テレビ朝日の報道通り、旭川中央署が組織内部で会計書類を偽造し、税金を裏金にしている疑いが一気に強まった。

「真実 新聞が警察に跪いた日」高田昌幸氏著/角川文庫

ウオッチドッグ記者は、「書類上は金銭をもらったことになっている市民が、いずれも『警察から金をもらったことがない』と証言したのである」というこの部分を読んで、過去の地域の出来事を思い出した。

2011年度のA学区自治連合会のB自治連会長が、大津市の琵琶湖市民清掃の補助金を不正に使用していたことが2012年に発覚した。当時のB会長は、日用品購入の私的流用だけでなく、その他に、補助金で5万円の商品券を百貨店から購入していた。2年分を合わせた10万円。問い詰める当時の自治会長らに対して、B会長は、業者に運搬費を商品券で支払ったと主張したという。

しかし、一般廃棄物の収集・運搬の許可書を持つ業者は当初「商品券は、受け取っていない」と発言していた。

不正をしたB会長を刑事告訴するかしないかで、地域が揉めに揉めていた中、突如、2013年に学区自治連合会長を引き受けると自ら名乗り出た人物(C氏)がいた。定年退職した元警察官で、なぜか、刑事告訴取り下げに動き、自治連合会の組織改革を潰した。

業者は「商品券は、受け取っていない」と答えていたが、大津市、警察、新聞社が動き出した半年後に、業者は「受け取った」と発言を翻した。この元警察官C氏の動きにも首を傾げたが、補助金を出していた大津市の対応もおかしかった。

真相究明に蓋をしたC氏が2013年に新自治連会長に就任した後、業者はようやく2年分の「運搬費」の領収書を提出したという経緯があった。当時、ウオッチドッグ記者は、この事件に全く関わっていなかった。後日、不正を追及したD元自治会長に関係資料を見せてもらった。業者が提出した2年分の領収書の筆跡や印鑑の押し方がおかしいと思った。日付は違うが、同じ字体に印影の傾き方まで同じであった。全ての領収書を一度に書いたとしか思えない領収書だった。この不自然な領収書の形態を目の当たりにしながら、何も動かない元警察官のC自治連会長に対しても、大いに不信感を持った。

不正をしたB会長、大津市、業者に対して発覚当時に聞き取りをした記録も見せてもらった。そこには、「他の学区への飛び火を大津市が恐れていることは、大津市環境政策課担当者からも確認できた」という記載があった。不正を見つけた住民らは、市の一連の対応に不自然さを感じていたようだ。2年分の経費に相当する10万円分の商品券は、本当に業者へ渡されたのだろうか。今も真相はわからない。

↓2013年に業者が出した2010年と2011年の2年分「琵琶湖市民清掃」運搬費の領収書/黒塗り部分は、業者名などが、特定されないようウオッチドッグが処理した。