安倍晋三首相が8月28日、突然辞意を表明した。首相の任期は来年9月までだったが、持病が悪化したためだという。24日に在任期間の歴代最長記録を達成した4日後のことだった。与党自民党の各会派では、次期の総裁を選出する動きが活発化している。

8月には、IR汚職事件にからんで、秋元司議員が再逮捕されたり、前法相の河井克行・案里夫妻の買収容疑の初公判など、政治家の汚職事件をめぐるに動きがあったが、テレビの報道は、次期総裁候補や、今後の政局の話題で一色となった。「こんな人柄」、「あんな人柄」とか、気の抜けたサイダーのような報道が続いている。総裁選候補者らに、今、法廷に臨む与党政治家らの汚職・不正を問いただし、説明責任を果たさせるべきだろう。

官邸ホームページを眺めていたウオッチドッグ記者は、ここ数カ月の官邸の動きに、違和感を覚えた。

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安倍首相の突然の辞意表明と、周辺からの情報の出方が、どうも変ですねぇ。一国の首相の体調のことなのに、隠すことなく、通院の姿をマスコミに撮影させていた。

安倍首相が辞任を表明した28日と同日、官邸で、第42回の新型コロナウイルス感染症対策本部が開催された。官邸の新型コロナ対策本部の「開催一覧」を眺めると、おかしなことに気がついた。1月から5月までずっと継続して掲載されていた「議事概要」が、開催日の6月18日、7月22日、8月28日と、見当たらなかった。持ち回り開催の3日分もなし。「議事概要」が掲載されていたのは、5月25日が最後だった。

不可解に思ったウオッチドッグは、5月下旬から、8月下旬までの各メディアの報道を読んだ。日付けごとに、ネットの各社報道をチェックすると、6月、7月、8月と、IR汚職事件や、河井前法相夫妻らの買収容疑などで、検察の動きが活発化していたことがわかった。

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官邸や与党自民党は、6月から8月の期間、コロナ対策どころじゃなかったんじゃないのかなあ。それとも、感染が収束していないのにGo Toトラベルを前倒ししたりしたから、各大臣の発言が書かれた記録を公開したくなかったとか。後で突っ込まれないように。この時期、対策を地方に丸投げだったし。官邸の存在感がなかった。

IR汚職事件や河井夫妻の買収容疑事件について、不勉強のウオッチドッグ記者は、これまでの流れを各社報道で、おさらいしてみた。まずは、2020年1月の記事2つ。

↓2020年1月6日付・週刊朝日
https://dot.asahi.com/wa/2020010500017.html

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まったく。昔から日本の政界は、こんな話ばっかりで、うんざり。IR三羽鳥の議員って誰よ。

↓2020年1月16日付・週刊朝日
https://dot.asahi.com/wa/2020011500071.html?page=1

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報道を時系列で整理してみよう。

2019年12月

主な出来事
25日、IRをめぐる収賄の疑いで、秋元司衆議院議員が逮捕された。

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昨年2019年12月25日に、カジノを含んだ総合型リゾート(IR)をめぐり、東京地検特捜部が秋元司衆議院議員を逮捕する方針を示したことを各社が報道した。下の記事は、朝日新聞の記事。秋元議員は、「カジノ法」を採決強行したときの内閣委員会の委員長だった。

↓2019年12月25日付・朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASMDT347HMDTUTIL00G.html

↓2019年12月26日付・毎日新聞

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特定業者や団体からの政治家への献金が、日本の政治を歪めているのでは。国民全体の利益ではく、応援隊の業界利益のために走る政治家が多い。政治家への献金のあり方について、国民全体で議論を深めたほうがいいんじゃないのと思った。
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秋元議員の逮捕直後、2019年12月25日の会見では、菅義偉官房長官が、「IR事業を着実に進める」と言ったけど、今後、どうするつもりなのかなあ。
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2019年12月26日の河北新報の「社説」は、秋元議員の逮捕にふれ、「利権と癒着の構図にメスを」という見出しの報道だった。カジノ利権にありつきたい業者と政治家との不透明な関係への疑問、ギャンブル依存、反社会勢力の介入、マネーロンダリングなどの問題を提起していた。

2018年の通常国会で、政府与党は、会期を大幅に延長し、カジノ法案を強引に可決した。それなのに、コロナ禍の今年の通常国会では、延長せずに閉会した。おかしすぎるー。

2020年1月

主な出来事
コロナ対策の遅れ、動き出したのは、中国の春節後。
30日(春節最終日)、初の対策本部開催。
31日、政権と近い黒川弘務検事長の定年延長を閣議決定。

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2020年1月、中国で新型コロナウイルスの感染が拡大する中、観光を政権の成長戦略の柱とする安倍政権は、中国の春節(1月24日から30日)期間、北京の日本大使館ホームページで、訪日を期待する内容の祝辞を出していた。下記は、東京新聞の記事。

春節の最後の日、1月30日に、国は初めての新型コロナ対策本部を開催した。

↓2020年1月31日の閣議決定から

2020年2月

主な出来事
2月3日~、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」内で検疫を始めた。
秋元議員が自民党を離党したが、ニ階派の特別会員として所属。

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2020年2月10日付の記事によると、自民党の二階派は、自民党を離党した秋元議員を特別会員として所属させていたんだって。二階幹事長は、「無罪の主張、信頼している」と言いながら、説明責任を果たすかどうかについて問われると、「本人の判断次第だ」というコメントだった。特別会員として所属させていながら、所属議員に、政治家としての説明責任を果たすよう勧めなかったようだ。
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3月から4月は、コロナ禍のニュースだらけ。さまざまな出来事があった。長くなるので、この期間については、省略。

2020年5月

主な出来事
5月14日、39県の緊急事態宣言が解除。
5月20日、週刊文春が、黒川検事長と産経、朝日記者らとの賭けマージャンを報道。
5月21日、黒川検事長が辞表を提出。
5月22日、黒川検事長の辞任が閣議で了承された。
5月25日、全国の緊急事態宣言が解除。

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コロナ対策では、後手後手対応への批判、愚策続きの迷走が続いていても、強気の政権が、5月頃から変わったとウオッチドッグ記者は感じた。第1波コロナの緊急事態宣言が解除されたのに、余裕がなくなったというか。
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上記は、5月12日付の朝日新聞の記事だが、「検察庁法改正案」をめぐる事の発端について書かれている。わかりやすかった。1月31日に、黒川氏の定年を半年延長することを閣議決定したことや、問題点に触れている。

↓2020年5月20日付の週刊文春の記事から

↓2020年5月21日付・NHKニュース

↓2020年5月25日付・ヤフーニュース/24日の共同通信の記事

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5月24日には、記者らと賭けマージャンをしていた黒川氏への処分が「懲戒」でなく、「訓告」の甘い処分に関与したのが、官邸だったということが5月25日に報道された。

2020年6月

主な出来事
6月13日、安倍首相が人間ドックを受診
6月17日、国会が会期延長せず、閉会。
6月18日、河井夫妻が、2019年7月の参院選広島選挙区の買収容疑で逮捕された。

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安倍首相が6月13日、慶応大学病院で人間ドッグを受診したと各社が報道した。「体調管理に万全を期す考え」と。
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戦後最大の危機と言われているこの時期、国会は延長せず、6月17日に閉じた。

衆議院ホームページの「国会会期一覧」を見ると、過去の国会の会期と延長の記録が記載されていた。「常会」(通常国会)に絞って一部を抜き出すと、2018年には32日間、2015年には95日間、2011年には70日間、それぞれ会期を延長していた。それなのに、コロナ禍の2020年に、国会を延長せずに閉じたのは、異様に映る。

↓衆議院ホームページ/国会会期一覧から、延長した回の一部抜粋

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国会が6月17日に閉会した。翌18日に、参院選での買収の疑いで、河井前法相夫妻が逮捕された。地元議員ら97人に合計約2,750万円を渡した疑い。
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2019年、自民党本部より、1億5,000万円が、自民党広島県第3選挙区支部と自民党広島県参議院選挙区第7支部へ、入金された。河井夫妻らはそれぞれ、政党交付金使途等報告書と政治資金収支報告書に、使途を記載しないまま、広島県選管へ提出。これが、今回の買収疑惑の発端。公金なのに、報告書の杜撰さ、いい加減さが極まりない。無茶苦茶。
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2020年6月25日になると、河井夫妻が94人に渡したとされる2,570万円から、自民党系の地元政治家42人に1,810万円へ提供されていたことが報道された。残りは、後援会関係者46人に約390万円、選挙スタッフ6人に約370万円が渡っていたという記事だった。

2020年7月

主な出来事
7月17日、東京都がGo Toトラベルから除外された。
7月22日、Go Toトラベル開始。

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東京で、第2波の新型コロナの感染拡大がみられると、国と東京都の責任問題のなすりつけ合いが始まった。東京都が、GoToトラベルから除外された。
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4月7日の閣議では、感染が収束した後に始めるとしていたGo Toキャンペーン事業のうち、Go Toトラベルを前倒しで開始。国交省などが、反対の声を押し切った。菅官房長官の肝煎り政策と言われている。

↓2020年4月7日の「閣議決定」から/Go Toキャンペーン事業について/気になった箇所を赤線で引いた。

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7月22日(第42回)から8月28日(第43回)までは、国の新型コロナ対策会議は全く開かれてなかった。この期間、国は対策と責任を、地方自治体に丸投げしていた。感染拡大が収束していないのに、国がGo Toトラベルを始めたばかりで、沖縄県は、感染拡大の緊急事態となった。それでも、政府は沖縄県知事へ責任を転嫁した。菅官房長官も記者会見で、沖縄県の対応を批判。

↓2020年8月3日付・東京新聞

2020年8月

主な出来事
8月15日、IR汚職事件の贈賄側の初公判日について報道。
8月17日、安倍首相が、8月1回目の通院。
8月20日、秋元議員が、証人を買収したとする偽証工作の容疑で再逮捕された。
8月24日、安倍首相が、在任期間の歴代最長記録を更新。
 同日、安倍首相が、8月2回目の通院。
 同日、東京地検特捜部が、IR汚職事件で、偽証工作の働きかけ3容疑者を起訴。
8月25日、河井夫妻らの買収容疑の初公判。
8月26日、IR汚職事件で、贈賄側の初公判。
8月28日、安倍首相が、辞意を表明。
同日、東京地検特捜部が、秋元議員の知人である経営コンサルタント会社の代表を偽証工作で逮捕。

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8月3日の毎日新聞の報道では、自民党本部から、河井夫妻へ支出した1.5億円が使途不明金になっているが、これについて、自民党の林幹雄幹事長代理が、「党独自の再調査は困難」と話していた。

↓2020年8月5日付・毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20200804/k00/00m/040/323000c

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8月15日に、IR汚職の贈賄側の初公判が26日に開かれると報道された。この報道の2日後、8月17日に、安倍首相は、病院で追加健診を受けたと報道された。メディアや国民の関心が、安倍首相の健康状態に向かった。
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8月20日に、保釈中だった秋元議員の再逮捕が報道された。贈賄側に虚偽の証言をすることの報酬として3,000万円を渡そうとした、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)の容疑という。
自民党のニ階派が秋元議員をずっと席に置かせていることに、二階派以外の自民党議員から、「前回の逮捕後も籍を置かせていたのは、節操がなさすぎる」と声が出ていることを、産経新聞が報じた。
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8月22日付の河北新報の「社説」では、甘い処遇をした二階幹事長の対応を批判。IR整備の見直しに言及している。
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8月24日には、安倍首相の在任期間が2,799日となり、歴代最長を更新した。前週に続いての通院についても報道された。同日、IR汚職事件で、証人買収の働きかけをした3容疑者が、東京地検特捜部に起訴された。

なぜ、最長記録を更新した、めでたいはずの24日に、再度受診をしたのか不思議だ。それも、一国のトップが、通院している姿を隠さずに。
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8月25日には今度は、河井夫妻らの買収容疑の初公判が行われ、検察側は、「証拠隠滅や口止め工作が行われた」と冒頭陳述で述べたという。

↓2020年8月25日付・時事ドットコムニュース
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020082500918&g=soc

↓2020年8月25日付・東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/51103/1/

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8月26日の毎日新聞の報道によると、IR汚職事件の初公判があり、贈賄側の観光会社前会長が起訴内容を認めたという。

同じく26日の東京新聞の報道によると、河井夫妻の買収容疑の初公判で、広島県の地元政治家の100人の実名が公表され、受け取りを認める人が出始めたと報道された。

↓2020年8月26日付・毎日新聞

↓2020年8月26日付・東京新聞

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8月28日なると、東京地検特捜部はさらに、秋元議員の知人の経営コンサル会社の代表を逮捕した。
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8月28日に、安倍首相が辞意を表明し、記者会見をした。国民やテレビメディアの関心が一気に、首相の辞意表明と今後の政局へと向かった。

ウオッチドッグ記者は、過去報道を眺めながら、安倍首相のストレスが高じたきっかけは、コロナ対応というより、賭けマージャンがきっかけで、黒川氏が5月22日、検事長を辞任したことが最大の要因かもしれないと思った。

自民党議員らの逮捕が相次ぎ、検察の動向が気になっているから、ストレスが増したのでは?  6月頃から、秋元議員、河合議員らの両事件で、検察の動きが活発化していた。

↓2020年8月28日付・東京新聞/辞任表明の会見やりとりを掲載していた。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/51760

本年、6月の定期健診で再発の兆候が見られると指摘を受けました。その後も薬を使いながら、全力で職務に当たって参りましたが、先月中頃から体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となりました。そして8月上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認されました。今後の治療として、現在の薬に加えまして、さらに新しい薬の投与を行うことになりました。

8月28日の辞任会見から(抜粋)
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それと、安倍首相の辞任会見で質問した記者らに対して、「お疲れ様も言えない。言った記者は1人だけ」という世間の声をあちらこちらでみかけたが「そんなことはどうでもいいことだろうに」と思った。

公金1.5億円の使途不明金や、過去に、国民の民意を無視し「カジノ法」可決の強行、そして、IR汚職事件で現職議員の逮捕。「不祥事が続出の政党の党首に対して、なんで、公の記者会見の場で、お疲れ様なんて言わなければならないんだよ」と思った。病気のことと、公務の責任は区別しないと。
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ウオッチドッグ記者が、日本に総理大臣という人がいると認識したのは、小学1年の頃だった。当時の首相は、田中角栄だった。迫力もあり、言葉で訴える力があった。小学生にも、この国を何とかしようする政治家の熱意は伝わった。

その後21人の首相が登場したが、辞めた首相に対して、「お疲れ様」と言わせようとするような社会風潮はなかった。

参照:カジノ法案成立に突き進んだ政治家たち

↓2013年11月11日のANNニュース

↓2016年12月7日のANNニュース

↓2018年6月15日ANNニュース