厚労省は巨額予算を使って布製マスク「アベノマスク」を作り、介護施設などへの一律配布をすることを7月31日に断念したが、同日、マスクと消毒液の転売禁止規制を解除することを、加藤勝信厚労相が明らかにした。メディア各社が報道した。
加藤氏は医療や福祉の現場を支援する所管の厚労省のトップだが、新型コロナウイルス感染症の対策では、まるで存在感がない。久々に話題となった報道がこれだった。
市場にはようやくマスクが出回り、価格も下がり始めてきているが、コロナ禍前の価格までには達していない。また、転売業者が暗躍したら、買い占めと価格の上昇が懸念される。日本全国で急速に感染が拡大し、経済的困窮の家庭が増す中、国民の間でマスクと消毒液は感染防止の必需品となっている。年金暮らしの高齢者が、身近なスーパーでマスクを購入できなくなったらどうするのか。転売禁止をこの時期に解除するのは、厚労省の愚策の極まりと言える。
マスク不足の状態をあえて作りだし、大不評のアベノマスクを、国民や介護施設の職員などへ、無理やりでも押し付けようとしているのではないかという、憶測も飛び交うタイミングだ。
7月27日の朝日新聞の報道では、厚労省のマスク班職員が「必ずしもまだ十分マスクが行き渡っているとは言い切れない状況の中で、布マスクを配ることで需要を抑制する効果が十分認められる」とアベノマスク配布の意義について、コメントしていた。4日後の31日には、加藤厚労相が「いずれの製品も供給量が大幅に増加し、購入が可能な状況」と会見している。厚労省内では、介護施設などへのアベノマスク配布を断念した後に、「(マスク)供給量の大幅増加」という評価に180度変わったことになる。厚労省は、医療や福祉を支援して、国民の安全、安心を守るというスタンスでなく、安倍晋三首相の言動に都合よく歩調を合わせるように、施策と評価がコロコロ変わっている。
加藤厚労相が、「マスクと消毒液の転売禁止規制」という愚策を表明した翌日に、安倍晋三首相はあれほどこだわって、一人だけが着けていた「アベノマスク」を捨て、福島県で作られたという「布マスク」を着け始めた。「アベノマスク」のマイナスイメージ払拭するためか、「復興支援」という看板をあえて強調した形で、露骨すぎる。
厚労省は、アベノマスク6,000万枚を備蓄するとしているが、内閣府、厚労省、経産省の職員らと、政府与党の政治家らが、アベノマスクをずっと着用し、使いきるべきだろう。巨額予算を使った「アベノマスク」を「ムダノマスク」にしておきながら、政治家や官僚の誰も責任をとらない。ガーゼの布マスクという性質上、カビの発生が懸念され、長期間の「備蓄」には向かない。いずれ、「カビノマスク」となり、不都合な公文書のときと同じで、世間が忘れた頃に、こっそり焼却されるかもしれない。
ウオッチドッグ記者は、9年ぶりに厚労省を取材したが、国の官僚の質の低下を実感した。アベノマスクを巡る厚労省職員のドタバタ対応を、記録魔のウオッチドッグ記者が取材再現(一部)してお伝えする。
厚労省のマスク班との取材やりとり
ウオッチドッグ記者は、取材のために、アベノマスクの現物が必要だったが、6月13日になっても、自宅へ届かなかった。そこで、厚労省ホームページで、アベノマスクの配布状況や問い合わせ先を確認した。ガーゼマスクのアベノマスクために、専用コールセンターが開設されていることに愕然としながらも、厚労省ホームページに掲載のフリーダイヤルに電話した。
受付「はい、政府の布マスクに関する問い合わせ窓口です」
ウオッチドッグ記者「アベノマスクが自宅に届かないのですが…」
受付「かしこまりました。郵便番号を教えてください」
郵便番号を伝えると
受付「少々お待ちください」
少し待たされた後、
受付「滋賀県の最寄り郵便局の6月8日時点のデータによりますと、4割ほどの配布率になっています」
記者「厚労省ホームページの全戸配布一覧を見ますと、滋賀県は9割の配布率になっていますが」
受付「厚労省のほうで、6月11日に情報を更新しています。それによりますと、全国で約9割の配布が完了し、15日までには配布されるということなので、もう少しお待ちください」
記者「このコールセンターが把握している情報が6月8日のものということは、最新の情報を把握していないということですか?」
受付「大変申し訳ございません。データは、毎週月曜日に更新しています」
記者「ハハ。ということは、月曜日にコールセンターに電話しないと、最新の情報がわからないということですか?」
受付「そういうことになります」
記者「アベノマスクが届かなかった場合、どうなるのですか?」
受付「届かなかった場合は、また、この電話にお電話していただければ」
記者「申込書が厚労省のホームページに出てましたが」
受付「そうです。1人1枚の追加申請ができます」
記者「それは、1人ひとりが申請するということですか?」
受付「いえ。世帯主の方がまとめて、不足分を申請していただければ」
記者「どこから届くのですか?」
受付「郵便局で手配させていただきます」
記者「土日まで問い合わせを受付してますけど、電話は多いですか?」
受付「鳴りやまないです」
記者「どんな問い合わせが多いですか?」
受付「布製マスクの洗い方などです」
記者「厚労省のホームページで、紐の長さが足りないとかなんとか、こんな質問、本当にあるのかというものをみました。厚労省がふざけているんじゃないかと思いましたが、実際に、こういう質問がきているということですか?」
受付「さようでございます」
記者「コールセンターの方は、何人ぐらいいらっしゃるのですか?」
受付「拠点となっているのは、ここだけではないので、全体の人数はわかりません」
記者「厚労省から委託されているということですね?」
受付「さようでございます」
厚労省の交換台に電話した。
記者「アベノマスク担当の医政局経済課へ繋げて下さい」
交換台「かしこまりました」
回されたところが「マスク班」。
記者「アベノマスクですが、最初に納入した枚数と、全戸配布の枚数と、余った在庫数はいくつですか?」
職員「こちらではわかりません」
記者「わからないわけないでしょ。厚労省のホームページで追加申込みができると書いていたじゃないですか。最初の納品数、出した数、余った数もわからないで、追加申込みを受付してどうするんですか?」
職員「追加で注文もできます」
記者「えっ。また追加注文するんですか? 前回の業者にですか?」
職員「はい」
記者「何しているんですか。そんなものを追加注文したら、また余計な金がかかるでしょう。余ったものを処分するための追加受付じゃないですか? そんなものにまた金かけるのなら、いらないという人もいるでしょうに。在庫数を書いて、なくなったら終わりでいいでしょう。枚数を教えてくださいよ」
職員「ちょっと待ってください」
長い保留の後
職員「1億2600万枚です。全戸配布数も1億2600万枚です」
記者「それだったら、ぴったりじゃないですか。余ってないことになりますけど」
職員「日本郵便が、ポスティングするのに、住所としてはあるが、非対象者の事務所とかの分は余ってしまっています。そこで、必要な人の追加受付をしたということです」
記者「だから、その数を教えてくださいよ」
職員「こちらは、マスクの受付だけなので、わかりません」
記者「データ共有してないんですか?」
急に無言になり、何やらカチャカチャとキーボードを叩くような音が聞こえてくる。
けっこうな時間をかけているが、無言。
記者「ちょっと、何か調べているんですか?」
職員「…はい」
記者 (「調べますので少々お待ち下さい」ぐらい言えばいいのにと思いつつ)「何か、あるんですか?」
職員「こちらは、マスクの追加受付なので、そこまでのデータを把握していません」
記者 (今のカチャカチャは何だったんだろう??)「だから、マスク追加の受付けをするのなら、在庫数の把握は大前提でしょ。では、どこに聞けばよいのですか?」
職員「日本郵便が把握しています」
記者「委託した大元は、厚労省ですよね。なんで、わからないんですか。日本郵便の番号を教えてください」
職員「お待ちください」
しばらく保留の後、電話番号を教えてもらう。
記者「あと、アベノマスクを466億円で見積もってましたけど、6月初めに、菅官房長官の会見後、260億円に圧縮と報道されていたじゃないですか。260億円は、1億2600万枚のアベノマスク代で全部ですか? それに、コールセンターの経費などは含まれているのですか?」
職員「それは、契約の担当になります」
記者「契約は、医政局経済課のほうでよいのですか?」
職員「医政局経済課に、再度、電話していただければ、契約担当につなぎます」
記者「(回してくれよと思いつつ)このマスク班は、何をやっているのですか?」
職員「マスクが届かないなどの電話がきたとき、手配しています。お叱りの電話がくることもあります」
記者「へぇ。わざわざ厚労省まで、お叱りの電話をかける人がいるのですか。厚労省のホームページに、本当にそんなことを聞く人がいるの?という質問が出ていましたけど、そんな質問あったんですか?」
職員「どういう質問があって、書いているのかまでは把握していません」
6月23日の同日、アベノマスク契約担当に電話取材するが、内訳についての説明が二転三転。別の担当者にも、在庫数を聞くと…。全戸配布が概ね完了とされた6月15日時点のアベノマスク在庫を教えたがらなかった。
記者「全戸配布が終わったんでしたら、残り枚数がわかるでしょう」
職員「各郵便局にありますから」
記者「そのデータを日本郵便で集約して把握しているでしょう。厚労省が知らないことのほうがびっくりです。また、業者へ追加注文ですか?466億円を使い切るつもりですか?」
職員「(466億円を)使い切るなんてひとことも言ってません」
とかなり気色ばんだ返答。
記者「令和2年度の予算概要の資料に、390億円の布製マスク配布の資料がありましたけど。あれは、何枚想定して予算立てているのか、書いていなかったので、教えてください。5月の毎日新聞の報道では、420億円で1億5,000万枚と書いてましたけど」
職員「1億3,000万枚です」
記者「では、1億5,000万枚って、どこから出たんですか?」
職員「3月に出した分も含んでいるんでしょう」
記者「理解しました。そういうことですか。令和元年度予備費で支出した3月の2,000万枚分も含めているということですね?」
職員「そういうことになります」
記者「とすると、6月の4000万枚を、令和2年度の補正予算から支出して、残りは継続ですね」
職員「そうです」
記者「とすると、30億円は、3月の2,000万枚分の金額ということですか」
職員「そうでしょう」
記者「6月23日に日本郵便とコールセンターについて、各都道府県宛の事務連絡で書いてましたけど、6月からこの仕組みを始めたということですか?」
職員「いえ、最初からです」
記者「5月14日の委員会で、事務費の内訳を話していたと思いますが、この事務費って76億円の配送費などと同じ内訳ですか?」
職員「同じです」
記者「5月の事務費と6月の配送費などはイコールですね?」
職員「そうです」
記者「当初の3月から、この仕組みが続いていたということですね?」
職員「3月のときは、検品は含まれていません」
記者「そうか。そうですね。不良品が出たから、保健所が目視で検品しているとかなんとか報道されてましたね。それで、批判も多かったので、回収して検品という流れになったということですものね」
職員「そうです」
記者「介護施設向けの追加布マスクは、あの全戸配布のアベノマスクと同じ形態ですか? 給食マスクのようなものですか?」
職員「そうです」
記者「でも、最初の配布のとき、違うタイプも届いたという報道を見ましたが。ゴム紐がないタイプで、耳が痛いとか…」
職員「メーカーそれぞれのマスクが合わさっているので、全部が同じとは言えません」
記者「大方は、給食マスクですよね?」
職員「そうです」
記者「届けるときにですけど、どういう形で出しているのですか?」
職員「袋詰めは、全戸配布用として2枚を入れてますが、介護施設向けは、そのまま梱包しています」
記者「アベノマスクは個別にビニールに入ってましたが、それが、ごそっと箱に梱包されているということですか?」
職員「そうです」
記者「布マスクの他に、一般マスク配布を補正予算で計上してましたけど、こちらは何枚ですか?」
職員「それは、マスク班ではないです。老健局のほうになります」
記者「厚労省では、施設へ配布するマスクの総数を把握していないのですか?」
職員「どういうことでしょう?」
記者「布マスクいくら、一般マスクがいくら配分されるのかの全容を掴んでいないのかということを聞いているんですけど」
職員「それぞれです。私も仕事がありますので」
記者「国民にどういう事業をしているのか説明するのが仕事でしょう」
職員「…」
記者「現場のニーズは把握しているのですか?」
職員「ニーズを把握していたら時間がかかりますので」
記者「3月、4月の緊急事態なら仕方がない面がありますが、その後、必要かどうかなどの現場の声を聞いてから、1億3,000枚のマスク供給をその後も続けるのか、柔軟な対応しないと無駄になりますよ。全戸配布のアベノマスクを使わないということで、施設へ寄付する動きもあるじゃないですか」
職員「でも、介護施設から、要らないという声は出ていません。全戸配布のマスクのときは出てました」
記者「介護施設などは、厚労省と関係が深いからでしょう。『要らない』と思ってもわざわざ言うわけないでしょうが。家庭では言ってますって」
職員「介護施設の方から、いつマスクが届くのかというお電話もいただきました」
記者「それは、突然、届いても困るからでしょう。業務をしていく上で、段取りしないと」
職員「それなら、そこでいらないということも言えたと思いますが、出ていません」
記者「いつ届くのかという電話が、必要としていると思うのは短絡的すぎではないでしょうか。電話がじゃんじゃんかかっていたんですか?」
職員「ちらほらですけど」
記者「ニーズ把握もせずに、いつ届くのかという問い合わせの電話だけで、現場が給食マスクを必要としていると勘違いしないでください」
職員「声のトーンを落としてもらえますか」
記者「地声がデカいんですよ。そういうときは、受話器を離して対応してください。国民はいろんな人がいますからね。声のデカい人からの電話は、受話器を離す。それで対応してください」
職員「わかりました」
記者「厚労省は、メーカーが作った、マスクのサンプルを見ているんですよね?」
職員「見てます」
安倍首相が、あの給食マスク「アベノマスク」を着けている以上、厚労省としては、それより、かっこいい布製マスクが作れないんだと。安倍首相の面子を潰すことになるから。厚労省としては、国民にどう批判されようが、詰られようが、安倍首相が着けている限り、「給食マスク型アベノマスク」に固執せざるえなかったということかと。
厚労省が、6月下旬から介護施設などへ出している4,000万枚のメーカーを公表しなかった。5月30日付で朝日新聞が受注メーカーについて報道していたが、4,000万枚がどこのメーカーに発注したものか、公表しなかった。公表するのかも確定していないということで、再度、取材。
記者「どうして、出せないんですか? 契約は済んでますよね」
職員「ちょっと待ってください」と電話保留。
しばらくしてから、
職員「契約がまだ済んでいません」
記者「6月下旬から配布が始まっているのに、契約がすんでいないわけないでしょうが」
「絶対言うな」とお達しがあるのか、あわあわした感じで答えなかった。
記者「わかりましたよ。巨額の予算を使い、物を既に出しているのに非公表ということですね」
マスク班の担当者が居留守
ウオッチドッグ記者は、7月27日の朝日新聞で、アベノマスクの追加発注のメーカーが、9事業者であることを知った。7月2日のウオッチドッグ記者の取材に、厚労省が答えなかったものを、朝日新聞の情報公開請求で回答しているということは、そのときから、公開情報だっただろうにと思い、28日から、怒涛の取材攻勢をかけた。9事業者のアベノマスクが、海外生産ということは、7月30日の朝日新聞の報道でも出ていた。28日、29日の厚労省と野党の合同ヒアリングの場で答えたとしている。
全て海外生産なのか、確認のために、マスク班担当者に電話しても、「後で電話します」と何度も言い、出ない。これまで取材した担当者を指名しても、みんな「席を外してます」ということだった。厚労省の交換台の担当が「△△は、席を外しています」と何度も言い続けた。
「取材なので、それなら、誰でもいいから、出してください」と伝えると、席を外しているはずの担当者の1人がでた。
「あらっ。席を外されていたんじゃないですか。先日、質問した諸々のご回答をいただきたいです。朝日新聞で報道もされてますし、隠すことでもないですから、教えてください」と伝えると、「△△には伝えました。折り返しの電話をすると言ってましたが…」と釈明していたが、聞いたとする担当者△△氏から音沙汰なし。
契約金額や保管場所について質問していたが、こんなことすら答えられないのが、厚労省「アベノマスク班」担当者らの状況だ。
参照記事など
↓Yahoo!/2020年7月27日付・朝日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/067dc44c7e681195be4815eaa1aedfd428dd397f
↓2020年8月1日付・毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20200801/k00/00m/020/094000c
↓2020年8月1日付・テレビ朝日
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000189832.html
↓2020年8月1日付・毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20200801/k00/00m/010/172000c