新シリーズの「ウォッチ・ポチ記事」です。「権力の監視」という役目を忘れ、「権力のポチ」と成り下がったメディアの記事を検証します。

2018年1月17日の産経ニュースは、前日16日の官邸の記者会見の様子を伝えている。東京新聞の望月衣塑子記者から質問を受けた菅義偉官房長官が「事実に基づいて質問してください」と、語気を強めたという。記事を検証すると、菅官房長官へ鋭い質問をした望月記者をやり玉にあげる内容だったことがわかった。

2018年1月17日の産経ニュースによると、

 菅義偉官房長官は16日の記者会見で、東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者が、ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の事務局長による安倍晋三首相との面会要請を断ったことについて質問したのに関連し「事実に基づいて質問してください」と語気を強めた。

2018年1月17日付産経ニュース/菅義偉官房長官、東京新聞の望月衣塑子記者に「事実に基づいて質問を」

http://www.sankei.com/politics/news/180116/plt1801160032-n1.html

産経ニュースの記事で、菅官房長官の「事実と違う質問」というのは、「菅官房長官がナンバーツーではない」ということと、「国連人権委員のデービッド・ケイ特別報告者の来日の期日」のことを言っているようだ。望月記者は、菅官房長官が、ナンバーツーかどうか質問したのか? 国連人権委員の来日した期日を質問したのか?

産経ニュースが記事の中で省いている望月記者の質問を、政府インターネットテレビと他紙で確認した。
↓政府インターネットテレビ/2018年1月16日午後・菅官房長官の記者会見
https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg16514.html?t=105&a=1

会見録を見ると、望月記者は、安倍晋三首相が、ICANの事務局長の面会要請を断ったという経緯から、「首相が会えない場合、ナンバーツーである菅さんご自身、ICANの事務局長と会うことはご検討していないのか?」と質問している。
それに対して、菅官房長官は、「私はナンバーツーではありません。いずれにしろ、この件については昨日も質問があって、昨日答えたとおり」と答えている。望月記者は、その後、「ノーベル賞をとった団体を、敬意をもって受け入れるためには、日本の首相が会わないのではなく、会ったほうが世界に向けてメッセージを発信できるのではないか?」とさらに質問している。望月記者が質問した「ICANの事務局長と会うことを検討していないのか?」には、菅官房長官は、答えていない。

さらに、望月記者は、2016年に来日したデービッド・ケイ国連特別報告者(国際連合の言論の自由、表現の自由に関する要職者)との面会を「政府側がドタキャンしたという経緯があった」と話した後、「国際的に高く評価された方々と政府の要職の方々ときっちり会って、世界にメッセージを発信していくということの必要性を、どの程度、政府は今、真剣に考えているのか?」と質問している。その質問に対して、菅官房長官は、「ドタキャンなんかしてません! 事実に基づいて質問してください。以上です」とだけ言い、会見を打ち切っている。産経ニュースの記事は、肝心な望月記者の質問部分を省いて、菅官房長官の「事実に基づいて質問して下さい」という発言だけを強調している。

こうしたやりとりから考えると、事実に基づいて回答しなければならないのは、官邸サイドだ。産経ニュースの記者は、記者会見の席上にいながら、菅官房長官に質問した望月衣塑子記者の揚げ足取りをしたことになる。

大津市政でも、2016年9月8日に、産経新聞の記者が、大津市住民の行政訴訟の提訴後に、原告側記者会見の録音データや配布資料を、被告側の大津市に提供していたことが判明し、原告側に謝罪し、記者が処分されるという事件があった。

2016年9月9日付の毎日新聞/産経記者が原告会見録音を被告の市に提供

https://mainichi.jp/articles/20160909/k00/00m/040/172000c

2016年9月9日付の毎日新聞の記事によると、産経新聞社広報部の話として「取材過程において記者の取材データの取り扱いに軽率な行動があったことは遺憾です。厳粛に対処するとともに、改めて記者教育を徹底します」と答えたという。
産経新聞の社内には、ポチ記者たちを育て、養う文化があるのだろうか?