ウオッチドッグ記者が、滋賀県庁へ行くと、必ず立ち寄る場所があった。滋賀県庁3階にある地方新聞社のスペース。古びたドアを開くと、滋賀報知新聞の石川政実記者(68)がいつも机に向かって記事を書いていた。声をかけると、振り向いて、柔和な笑顔を向けた。

石川記者は、ウオッチドッグ記者がどんな話をしても、いつも冷静に聞いていた。その石川記者が、8月20日で滋賀報知新聞を退職した。36年の滋賀報知新聞での記者生活だった。最後の最後まで、第一線で活躍し続け、現場にこだわった名記者だった。

石川記者は約20年前、「しが自治会オンブズパーソン」の加藤英子さんが提起した「自治会とカネの問題」を報道した。そこで、当時の石川記者の報道をよく知る加藤英子さん同席のもと、8月30日に石川記者にインタビューし、記者生活を振り返っていただいた。

石川記者が発信した「歪む地域コミュニティ」シリーズですが、この連載を書くきっかけになった経緯を教えてください。

以前住んでいたところでも、自治会については疑問があった。その後、滋賀報知に入社した後に知ったんだが、当時の大津市役所に、大津市自治連合会長が使う部屋と机があってね。その連合会長は、山本俊一氏だった。それはおかしいということで、いくつか追及の記事を書いた。その後、加藤さんが、自治会とカネの問題に声をあげたが、最初に書いたのは、朝日新聞の下地毅記者だった。彼は1人でコツコツと頑張っていた。

石川記者は、それに続いたということですか?

 

そう。当時、栗東市のRD問題(注:参照記事を掲載)を手がけていた。RD社の処分場から猛毒の流加水素が出たという最初の報道は、どこの社も書いたがその後が続かない。滋賀報知で追及してほしいと市民の方から言われたので、手がけた。だが、1社だけでは問題の深刻さがなかなか市民に伝わらない。その時、朝日新聞の下地記者が、RD問題を取り上げた。それなら、滋賀報知の私も、下地記者が追及していた自治会問題を取り上げようとなった。連携していたわけではないが、なんとなくそういう気運になった。その後、自治会やRD問題は、毎日新聞の日野行介記者も追及したよ。短期間しか滋賀県内にいなかったが、彼らは有能な記者だった。

石川さんの記事で、朝日の下地記者、毎日の日野記者、後は、中日の記者に捧げると書いていた記事がありましたね。あれには、けっこう感動しました。他社の記者への最大限の賛辞だと。

中日は、宮川弘記者だね。彼もよく書いていた。

 

RD問題は、何本ぐらい書いたのですか?

 

40本ぐらいかな。嘉田由紀子氏が知事の時もけっこう書いたから、「あなた、RD問題で私を責めたわね」とチクリと言われた(笑)。

そのRD問題を取り上げていた渦中の時、自治会の問題を取り上げて、「歪む地域コミュニティ」シリーズを書いたということですね。

そう。加藤さんの自治会問題を取り上げる中、いろんな地域で、自分のところにもこんな問題あると出て来てね。自治会の問題も下地記者たちが異動になった後は、書くのは自分だけになって。当時、加藤さんからも、やいのやいのけっこう言われたし(笑)。

加藤さんにお聞きしますが、当時の石川さんの報道を間近で見て、どういう感想を持たれましたか?

最初、この問題に取りかかった時、わからなかったことが多かったから、石川さんからいろんなことを学んだねぇ。石川さんは誠実に取り組んでくれた。

記者の書く書かないという話題が出てきましたが、石川さんはメディアがどうあるべきだというお考えですか?

滋賀報知での経験で言わせてもらうと、小さな地方紙なので、一般紙と同じことをせず、一般紙が取り上げない話題や小さなスキャンダル、書かない部分を書いた。例えば、県庁の人事予定とか。書いてはいけないような政治のスレスレの問題も書いた。

石川さんは、県内のかなり深刻な問題を追及されてきたと思いますが、県から情報もらえなかったりといった嫌がらせのようなものはなかったのですか?

それはあったよ。でも、そんなことは関係ない。それならさらに叩く記事を書くまでだ。行政という権力が無視できない状態をつくればいい。県広報課は、たとえばRD問題でも県政記者クラブの若い記者たちを集めて勉強会を開くんだよ。うがった見方をすれば県にとって都合のよい記事を書かせるために、レクチャーするともいえる。ある意味で、すり合わせだね。昔は、県政記者クラブに加盟していない地方新聞は、県議会の常任委員会にも入れなかった。一般紙はOKだったのに。それは、おかしいと、当時の故・深田正治社長が、故・桑野県議会議長の胸倉をつかむほど詰め寄ったこともあったね。かなりの迫力だった。県や県議会は県政記者クラブの一般紙と同等に扱わなかったんだ。紛れもなく差別を受けてきた。

石川さんたちの努力で、県内の地方新聞の立ち位置もだいぶ改善されたということですね。

それでも、まだまだ(笑)。例えば、大井さんのところのウオッチドッグもそうだが、ローカルメディアにはいろいろあるでしょ。そこが一致団結して、県や各市にしっかりとした報道のための場所を確保していくことが必要だ。すでに県庁や大津市などでは、地方記者クラブ(滋賀報知新聞ら約10社が加盟する滋賀県新聞連盟)のスペースを獲得している。地域の新聞がしっかりしないと、地域が歪む。そのためにも地域の新聞、CATV、FM、ミニFM、大井さんのインターネットメディアが結集し、地域を掘り下げる報道を続けて行かなければならないと思う。

よくわかりました。ありがとうございました。今後も滋賀県民のために、記事を書き続けてください。

↓ウィキペディア参考:滋賀報知新聞とは・・。

↓参考記事/2002年4月25日滋賀報知新聞/公金使途で市民感覚とズレ/加藤英子さんの自治会報償金裁判の記事

↓参考記事/2014年7月24日滋賀報知新聞/旧RD産廃最終処分場の記事


↓参考記事/2005年12月29日滋賀報知新聞/RD問題を身体をはって報じた中日新聞の宮川弘記者、朝日新聞の下地毅記者、毎日新聞の日野行介記者に捧ぐ(石川政実記者の記事)