【検察の思考回路】(1)「目をつぶって墨守」が正義/社会復帰は果たしたが/起訴後 フリーズ状態

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検察内部の問題を自著「検事失格」で赤裸々につづった元検事の市川寛弁護士(53)は「『検察庁の起訴に間違いない』というのを信じているのが前提ですよ。なかなか『起訴そのものが悪かった』という結論は出さない」と言う。「再審はなおさらで、確定判決は絶対に崩してはいけない、目をつぶって墨守するしかない、それが正義なんだ、と考える。ほかの再審請求事件での対応を見ても、それ以外の理由では説明がつかない」と解説する。
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(2019年6月9日 角雄記記者)
元厚労省事務次官の村木厚子さん(中日新聞から)

【検察の思考回路】(2) 勝敗にこだわる体育会系/非常に閉鎖的な社会/立証の困難さを競う

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検察に「正義」への期待はあっても、それは「負けない」ことではない。呼吸器事件で、この後に及んでの有罪主張に村木さんは言う。


「負けて『だめなことはだめ』って分かってもらわないとしょうがない。負けることで、彼らも勉強になるんですよ。私の時だって、負けなければ、あの事件から何にも学ぼうとしなかったでしょうから」

(2019年6月16日 角雄記記者)

【検察の思考回路】(3) 不都合な“真実”は隠す/証拠を見せずに優位に/決めてを履した開示

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証拠を見せないことで優位を保つというおかしな手法が、驚いたことに司法界ではまかり通ってきた。呼吸器事件の弁護団長で元裁判官の井戸謙一弁護士(65)は言う。

「司法修習の時も(教官役の)検事はそう言ってました。時間をかけて膨大な資料を集めているのはその通り。それに対し弁護士の接見なんて、当時はアクリル板越しに二十分程度。圧倒的な情報格差があり、検事の話に『そうだろうな』と受け止めてしまう空気はありましたね」
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(2019年6月23日 角雄記記者)

【検察の思考回路】(4)人権より組織の忠誠/立証を弁護側に迫る/事なかれ主義の判断

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再審に向け、大津地裁で六月十二日に開かれた裁判官、検察官、弁護人の二度目の三者協議に同席した西山美香さん(39)も、怒号の主と似た気持ちにさせられただろう。協議後の会見でこう言った。

「何を考えているのか、よく分からなかった。はっきりとものを言えないあの検察官に、もう一回被告人と呼ばれるのは、腹正しいです」
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郵便不正事件の冤罪被害者で、元厚生労働省事務次官の村木厚子さん(63)は「検察に限らず、組織を変えるには大変なエネルギーが要る。それにチャレンジする勇気が持てない時には、『自分一人が組織を裏切れない』と思い、どこかで『これは必要悪だ』と自分を納得させてしまうのでしょう」と分析する。

(2019年6月30日 角雄記記者)

2019年10月に、検察が有罪立証を断念し、西山さんの無罪が確実となりました。
中日新聞の編集委員の泰融氏は、連載「西山美香さんの手紙」の冊子の最後に、こう書いています。一部を抜粋しました。

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登山に例えると、法曹界の井戸さん、医療界の小出君、そしてジャーナリズムの私たちが組むキャラバンとは、全く別のルートから、裁判長と二人の陪席によるキャラバンが「再審」という山頂に向かい、偶然にも同じタイミングで頂上で巡り合った、そんな出来事でした。このような明白な冤罪に対する、検察という国家権力による、組織挙げての抵抗、その主張を安易に認めてしまう裁判官たちの存在は、山頂までの踏破を阻む、とんでもない“悪天候”のようなものだと言うこともできるでしょう。

奇跡のような偶然が重なったおかげで、私たちは今もこの調査報道を続けられています。しかし、忘れてならないのは、私たちは2004年、警察の発表のままに西山さんを犯人扱いした「加害者」でもあることです。
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(2019年12月12日 秦融 編集委員)
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