文書通信交通滞在費を改正する法律案概要が、衆院の法制局のホームページに掲載されている。それによると、今回の名称と目的の改正の経緯として、56年前の1966年(昭和41年)に開かれた議員等歳費に関する調査会の答申を踏まえて、国政に関する「調査研究」、「広報」、「国民との交流」、「滞在」等が、議員活動の例として挙げられているから、改正したとしている。
しかし、2001年に行われた衆院改革に関する調査会の答申には、「立法事務費及び文書通信交通滞在費は実費弁償的なものであり、議員活動に必要不可欠であるものの、領収書等を付した使途の報告書を義務付け、報告書を閲覧に供するべきである」と書かれている。今回は21年前のこの答申内容が無視された形だ。
衆院のホームページによると、2001年の衆院改革に関する調査会は、綿貫民輔衆院議長から委嘱を受けた委員12人で構成され、2001年4月2日に第1回の調査会総会を開催し、発足したという。
↓2001年衆議院改革に関する答申
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/ugoki/h13ugoki/153/153chosa.htm
調査会では、①政治倫理に関する事項 、②国政審議の在り方に関する事項、③議員の諸経費に関する事項について、延べ32回にわたって調査・討議を行い、答申案起草委員会を2回開催した。その後、当時の綿貫議長に『衆議院改革に関する調査会答申』が手交された。
この答申の基本理念は次の通りだ。
「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。それを構成するのは、主権者たる国民の代表として国政を信託された国会議員である。国会議員は、この厳粛な地位に深く想いを致し、職責の遂行に真摯に取り組むことが望まれている。ということは、国民の代表として、国会議員には、議員活動を遂行するにあたって高度な倫理性が求められることはいうまでもない。国会議員は、かりそめにも国民から疑念や不信感を抱かれることのないよう自らを律する厳しさが求められる」
さらに、こう述べている。
「それは単に、国会議員は、一部の利益団体の代弁者であってはならず、広く国家の利益・国民の福祉を念頭に専心、行動することを意味しており、それが社会的に認知された倫理である。にも拘わらず、未だに国民の信頼や期待に応えられない事件が散見されることは残念至極と言わざるを得ず、個々の国会議員の倫理性の喚起と国会としての自浄能力の発揮を強く求めるものである。その意味でも、政治倫理確立に向けた何らかの立法措置を早急に講ずる必要がある」
「政治と私的利益の癒着を防止し、政治倫理を確立するためにも、国会審議を活性化し、実質化させ、国民の前にオープンな形で議論し、調整することが必要である。国民生活にかかわる問題等について、委員会や本会議における議論を通じて有権者に政策の争点を明らかにすることが重要であり、このことは、与野党を問わず、それぞれの立場で国民に対し説明責任を負っているといえる」
つまり、国民への説明責任と、意志形成の過程を明らかにし、オープンな形での議論を求めている。
この答申には、具体的な手段として、「立法事務費及び文書通信交通滞在費の使途を明らかにする」ことを求め、次のように提言している。
「立法事務費については、政党交付金の制度ができたのだから、現行の会派支給を止め、これを議員に支給し、議員の立法活動の使用に供するべきである。立法事務費及び文書通信交通滞在費は実費弁償的なものであり、議員活動に必要不可欠であるものの、領収書等を付した使途の報告書の提出を義務付け、報告書を閲覧に供するべきである」
衆院・広報課によると、今回の文通費の法改正に向けて、公式な会議は、2022年4月14日の議員運営委員会の1回のみで、あとは、各会派の協議だけという説明だった。衆院・広報課は、各会派の協議内容は知らないという。2001年の答申で、文通費の使途報告の義務付けを提言されていたにも関わらず、20年経過しても実現に至っていない。
衆院法制局の職員は、1966年の答申のみを記載し、2001年の調査会答申を「法律案概要」に含めなかったことについて、「国会議員の先生方の判断による」と釈明していた。
↓衆議院法制局「衆法情報」
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/html/h-shuhou208.html#hou29
↓国会法及び国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案「概要」
↓2001年の「衆議院改革に関する調査会」の答申