宮武外骨の滑稽新聞は、明治34年1月25日に第1号を発行し、12月20日発行の第20号が、1年の締めくくりの刊となりました。この20号に、1年間の回顧を兼ねた「終刊の辞」という記事を掲載しています。宮武外骨の記者としての姿勢と胸中がよくわかる記事となっています。

この1年間の振り返りの記事を要約すると・・。
【滑稽新聞は、嘲罵と風刺で、文壇に新生面を開き、人々の欠乏している一種の要求を満足させた。さまざまな新聞雑誌が言ってほしいことを言わず、やってほしいことをやらない中、思ったことをそのまま言い、終始変わらなかったためである。

そのため、時に筆禍を買い、言罪を招き、或いは法規に抵触して司法に関与される羽目にもあった。或いは条例違反ということで、当局者から厳しく問い詰められ、告発となり、告訴となり、訴訟となり、判決となり、罰金まで課せられた。発売を禁止され、認可を取り消される不慮の災難にも遭遇した。

この一年の間で、滑稽新聞がこのような波乱にあったのは、多数の新聞社の間でも、むしろ異例のことである。しかし、自分は熱い思いで、自由奔放な行動をとり続けた。常識を超えて、成法の範囲外に飛び出るようなことをしたため、このような罪を担わざるえなくなった。

独立独歩、いやしくも筆すべきは必ず筆し、記すべきは必ず記す。胸中一点の私心なく、私情なし。権勢に屈せず、威力を怖れず。この誠の心で、思いを述べ、忌憚なく遠慮なく、自分の主義を開拓し、自分の思想を主張するのは、滑稽新聞の体面にして、特色である」

※下記は、宮武外骨が書いた原文記事を、そのまま掲載しています。現代の読者が読みやすいように、余白を設けました。

滑稽新聞  明治34年12月20日発行 第20号 今年 終刊の辞 

鳥兎匇々歳将に暮れんとす。吾人はここに第20号を刷出して、本誌今年の終刊となし。更に明春の元旦を以て、新しき意匠、新しき思想によりて、明治35年の天地に例の贅六文学たる詞藻の彩花を開かしめんと欲す。

回顧すれば今春1月本誌を発行し、個々の声を関西の文壇にあげてより以来、月を閲すること十二、号を重ねること二十、幸いに江湖の賞賛を博し、大方の愛読を辱うし、極めて短小なる時日に於て、長足なる進歩と剛健なる発達を遂げ、今や我が滑稽新聞は、日本記者社会の一方に、隠然雄視し得べき実勢を具ふるに至れり。

これ蓋し、本誌が、嘲罵と風刺によりて、文壇に一新生面を開き、現当に欠乏している一種の要求を満足せしめ、滔々たる満天下の新聞雑誌が言わんと欲して言う能はぞ。行わんと欲して行ふ能はざる直情徑行の言論を以て、終始一貫したるが為ならずんばあらず。

吾人は、之がために、時に筆禍を買い、言罪を招き、或いは法規に抵触して司直の問ふ所となり。或いは条例違反に目せられて当局者の詰責を蒙り、告発となり、告訴となり、訴訟となり、判決となり。罰金を課せられ、発売を禁止され認可を取り消さるるが如き、不慮の災殃に遭遇したり。

近々一年の間に於て、本誌が彼の如き波乱を演じたるは、多数なる同業者の間に在りても、寧ろ稀有の異例とする所なり。然れども、是れ真に、吾人が熱誠のいたす所、放奔邁行知らず。常軌を逸脱して、成法の範囲外に超出して、以て、かくのごとき、罪累を担うに至れるもの。吾人又は些か自ら慰むるものなくんばあらず。知らず。常軌を逸脱して、成法の範囲外に超出して、以て、かくのごとき、罪累を担うに至れるもの。吾人又は些か自ら慰むるものなくんばあらず。

独立独歩、いやしくも筆すべきは必ず筆し、記すべきは必ず記す、胸中一点の私心なく、情実なし。権勢に屈せず、威力を怖れず。この天心を露出して、この胸臆を述べ、忌憚なく遠慮なく、吾人の主義を開拓し、吾人の思想を鼓吹するは、本誌の面目にして、実にその特色なり。
吾人は、筆硯のために、罪を大方に求め、恨を江湖に買い、吾人の背後に、怨嗟の声を発するものあることを思はざるにあらざる也。

唯、吾人は、熱誠なることに触れ、物に接して、自己の所見を発表せずんば止まず。或いは、天下の新聞雑誌を敵として親愛なる同業者に嫉妬せられたることもあらん。或いは、知己朋友より、過酷の言動なりと目せられたることもあり。しかも、情実のために筆を動かし、恩恨のために口舌をニ三にするが如きは、吾人の最も戒心する所。いやしくも、主義に合せずんば、知己朋友といへども、時に筆誅を加へざる能はず。吾人の心事は潔白なり。玲瓏一点の曇りを見ざるなり。願わくば大方諸氏、吾人の衷情とせよ。

乃ち記して明治34年に於ける終刊の辞となすこと斯くの如し。

 

 

 

注釈

吾人・・・・わたくし、われわれ。
辱う・・・・おそれ多くも…していただく。
雄視・・・・威勢を張って他に対すること。
滔々・・・・物事が一つの方向へよどみなく流れ向かうさま。
直情徑行・・ 思ったことをかくさず、そのまま言ったりしたりすること。
災殃・・・・災殃
胸臆・・・・心の思い
戒心・・・・油断しないこと。用心を怠らないこと。
玲瓏・・・・透き通るように美しいさま。また、玉のように輝くさま。
衷情・・・・うそやいつわりのない、ほんとうの心。
諒・・・・・よしとする。もっともだとして承知する。

◆「滑稽新聞」は、毎週水曜日に掲載◆

 参照:滑稽新聞とは/コトバンクより
1901年(明治34)1月25日,宮武外骨が大阪で発行した雑誌型(A4判通常20ページ)の権力風刺新聞(月2回刊)。〈強者を挫いて弱者を扶け,悪者に反抗して善者の味方になる〉の発行趣旨のもと,権威をふり回す官吏,検察官,検事,裁判官,政治家,僧侶,悪徳商人,悪徳新聞に筆誅(ひつちゆう)を加え,詐欺広告やゆすりを告発するなど痛烈過激の記事を風刺画入りで満載したため,庶民の人気を集め,最盛期には8万部を発行したという。