現代ほど、情報化社会ではなかった明治時代は、報道のネタは、読者からの投書によることが多かった。
水上署の萩金三の賄賂事件も、1人の読者の「投書」から、調査が始まった。
この投書について、宮武外骨は、「滑稽新聞社の主義上、最も歓迎する投書」という見出しで、「官吏の収賄、新聞社のユスリ、イカサマ、詐欺広告屋のインチキ手段に関することで、事実の正確なものを提供してくれたら、滑稽新聞社は奮闘する」と書いている。他の新聞社のように、個人のプライベートな話題を摘発するつもりはないと断言している。
その理由として、「直接、間接に社会の風紀を害し、その流読の最も甚だしき者を一番に筆誅するのを急務だと悟り、一般のガラクタ新聞が己を利さんと一人一家の私事を摘発するようなものと違う」としている。
さらに、「己の私怨を晴らさんとするため、一人一家の私事を投書しに来る者が、今尚いる。このような没投書となったものでも、ユスリをしているのではないかと邪推される懸念もあり、小心翼々の記者は、このような投書に接すると、心が痛むことも多い」と書いている。
滑稽新聞社は、社会の風紀を害する者を筆誅するのであって、私怨に基づく個人のプライベートなことを筆誅するつもりはないという方針を、あらためて、読者へ宣言している。