明治の調査報道「滑稽新聞(明治37年2月15日付)」第66号では、水上警察署長の賄賂事件について報道した前号の後に、大阪府警察部が「取消申込書」を滑稽新聞社に送ってきた顛末を記事にしている。

前号の記事で、大阪地方裁判所の検事局の手塚検事正が常々、滑稽新聞社へ伝えていたとする言葉を紹介した。警察部は「大阪警察部の悪事を摘発する時は、記事の内容を私に知らせてくれれば、直ぐに確かめる」と書いた滑稽新聞の記事に敏感に反応した。手塚検事正が話したとする言葉はというと…。

「大阪警察部内の悪事を摘発する時は、その発行前に、記事の内容を私に知らせてくれれば、直ぐに事実かどうかを捜査して、時機によっては、憲兵部に依頼し、罪跡を確かめる。そうすれば、紙上に掲載された事は、既に、当局でその証拠を押さえているので、記事は事実ということで社会に発表される。滑稽新聞の信用も大きくなるだろう。もし、そうでなくて、無断に、突然、掲載したならば、当局においてその曲事を知ることになり、犯罪者もその摘発を知ることになり、罪跡を隠滅する恐れがある」

この言葉を掲載した後、警察部から「取消申込書」が滑稽新聞社に舞い込んだという。警察部が「手塚検事正に確認したところ、『貴社の主筆に対して、そのような注意をしたことはない』という回答をもらったから、事実無根なので取消しをしてほしい」という内容だった。

これに対して、宮武外骨は66号の記事中で、警察部の言い分に反論している。

「本当に事実無根ということなら、検事局から取消しの申込みがあるはずだが、それは無くて、かえって対象の警察部からこんなことを言ってくるのは少し妙だ。この取消申込書のほうが『事実無根』だろう。(明治37年2月)2日に、滑稽新聞社の主筆が、手塚検事正に面会したとき、検事正が言うには『この間の記事について、今回、警察部より事実有無の照会があったから、かつて、同様の注意を与えたことはあっても、単に警察部の悪事のことだけを言ったのではない。一般(ユスリ新聞社員の犯罪、官吏の収賄、詐欺広告の奸手段等)の摘発記事について言ったものだ』と回答していた。これも事実無根の記事というのなら、手塚検事正の証明書を添えて、更に取消しの申込みをしたらよい。その時は、以前の記事と共に謹んで取消ししよう」