国から地方に交付された新型コロナウイルス感染症対応の第1次・地方創生臨時交付金(1兆円)で、各自治体が医療、福祉、教育、地域経済活性などさまざまな支援策を取り組んでいたことが、内閣府のホームページで公表している「事業一覧」(8月21日時点)でわかった。ところが、大津市は5月補正予算で、この地方創生臨時交付金の大半を、企業への一律給付金に使った。しかも、他の市町村のように、適正かどうかを細かくチェックするような制度にはなっていない。チェック体制の甘さが露呈した形だ。

内閣府の地方創生推進事務局は、地方自治体から届いた第1次・地方創生臨時交付金の「実施計画」を受けつけ、各省庁へ移管する配分作業をした。第1次・臨時交付金の交付は、7月3日と22日に終了している。地方自治体の取り組み事業については、内閣府のホームページで公開されている。

大津市は5月補正予算で、地方創生臨時交付金約8億円のうち7億5千万円を、小規模事業者と個人事業者へ、売上の減少率に応じ一律給付金などを出した。滋賀県の休業要請に応じたかどうかは、給付の条件にはしないとした。

この時期は、緊急事態宣言が解除されたばかりだった。各自治体がどのような対策をするのか、注目されていた時期でもあった。この交付金の使い道で、各首長の力量や考え方が見えてくる。

↓2020年大津市の5月補正予算より/小規模事業者等給付金給付事業/国の地方創生臨時交付金から歳入

チェック!各自治体の取り組みを内閣府ホームページで見てみよう!

↓内閣府地方創生臨時創生推進事務局のホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/rinjikoufukin/index.html

国から都道府県へ7月3・22日に交付/第1次分は「事業一覧」として公開

↓新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金「地方公共団体別事業一覧」/2020年8月21日時点
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/rinjikoufukin/pdf/keikaku_dai1_ver1-4.pdf

野洲市、草津市、守山市は…

大津市近隣の自治体、野洲市、草津市、守山市などは、どのような独自取り組みをしていたのか確認してみよう。

野洲市
奨学金を受けている大学生への生活支援緊急給付金や、失業者や経済的困窮者へ社会福祉協議会が貸付をしている「生活福祉資金」の対象者に対して、つなぎ資金を給付することで生活支援を行うなど、生活困窮者への支援策がみられた。経済活性化策としては、市内で使えるプレミアム商品券を発行し、市民全体を対象とし、地域経済を活性化させる支援策を打ち出していた。

草津市
新型コロナウイルス関連の影響で失業した人や、内定を取り消されて求職中の人のなかから、5人を市職員として雇用した。国の家賃支援や県の臨時支援金の対象者への上乗せ給付など、困っている人たちへ手厚い支援策を打ち出していた。

守山市
学習支援事業として、市内在住の小中学生、特別支援学校の児童生徒8,900人に、3,000円の図書券を郵送した。子育て世帯などへの生活支援として、地域商品券1万円を発行し、18,000人へ配布した。

ウオッチドッグが、内閣府のホームページで、臨時交付金の「事業一覧」を確認したところ、休業要請に応じたかどうか関係なく、民間企業へ給付金として丸ごと給付している自治体は非常に限られていた。滋賀県内では、長浜市が大津市と同じような施策だった。米原市も、大津市や長浜市と似たような施策だが、申請書類の記載事項を読む限り、かなり対象を絞り込み、より厳密な形でチェックしている。

大津市と長浜市のホームページは、それぞれ申込み用の提出書類を提示しているが、かなり“緩い”ことが分かる。米原市が、申請書として求めている要項と比較しても、肝心な部分の明示が足りない。

大津市の場合、20人以下、5人以下とする対象人員に、非正規雇用を含むのかどうかも記載がない。さらに、不正防止のための「宣誓」の提出を求めておらず、添付書類からも重要なものが抜けている。

米原市の制度(とても厳格)

米原市の「小規模事業者減収緩和支援金」

・2020年2月1日時点および申請時点で、次の全てを満たす事業者が対象。
・米原市内に住所を要する個人事業主(一人親方やフリーランスを含む)または市内を本店所在地として法人登記を行う法人。
雇用保険に加入する従業員の人数が20人以下の事業所。
・新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことで、年間売上高の減収率が2割以上となる者。
・事業者内の従業員の人数(非正規労働者を含む)に応じた額。
・5人以下5万円、6人以上10人以下10万円、11人以上15人以下15万円、16人以上20万円を交付する。

・支援金を受けたい申請者に、交付要綱の規定として「宣誓」を求めている。
・虚偽や不正がないこと、市の調査に応じることや、不正が判明した場合、全額を返金することを誓わせている。
・支援金の交付の可否を判断するため、市が住民基本台帳および市税などに関する公簿を閲覧することに同意を求めている
・法人番号の記入を求めている。
・「日本標準作業分類・中分類」の業種と事業開始の年月日の記入を求めている。
雇用保険に加入している従業員の人数の記入を求めている。
・具体的な減収の理由の記入を求めている。

▽米原市が求める添付書類
・令和元年度の営業等の収入がわかる書類(確定申告書の写し)
・コロナの影響を最も受けた月の営業等収入額などを示した帳簿等の写し
・従業員名簿
・申請者名義の振込先口座の通帳の写し

↓米原市小規模事業者減収緩和交付申請書兼請求書

大津市の制度(とても緩い)

大津市の「小規模事業者応援給付金申請書兼請求書」

・大津市では、雇用保険に加入している従業員の人数なのか明示されていない。
・人数についての具体的な説明なし。
・小規模事業者は、人数を基準としているのに、従業員の名簿の提出を求めていない。
・確定申告書の添付は、個人事業者しか求めていない。提出は直近の決算書の写しだけ。
申請者の振込先口座の通帳の写しを求めていない。
・「確認事項」はあるが、「宣誓」なし。誰が確認したのか、責任所在が不明瞭。
・不正が判明したとき、全額返還させる記載もなし。
・金額が事業規模に関係なく一律。米原市のような人数に応じた給付金額にしていない。そうなると、1人の個人事業者でも、売上減少率により、30万円を受け取れる。1人でも20人の事業所でも、給付金が同じという不公平さ。
・添付資料が、公共料金の写しだったり(いつのもかも記載なし)、事業所のパンフレットやチラシだったり、ホームページのコピーもOKという曖昧さ。

↓大津市新型コロナウイルス感染症対策小規模事業者応援給付申請書兼請求書

【解説】

新型コロナウイルス感染対策の休業などで、前年度比で売上が50%減少した中小企業などは、国による持続化給付金(中小企業、小規模事業者200万円、個人事業者など100万円)を申込みし、審査を経て受け取ることができる。不十分かもしれないが、いちおう国の制度はある。

予算が限られている地方自治体向けに用意された、国の地方創生臨時交付金は第1次補正予算で1兆円。第2次補正予算で2兆円。どのような分野に用いるかは、地方・地域の事情に応じて、適切に用いられなければならない。困っているのは何も企業や事業者だけではない。まさに各自治体の腕の見せ所と言える。

大津市は佐藤健司市長の意向を受け、国の持続化給付金に上乗せした形で、中小企業や小規模・個人事業者へ給付金を支出することにした。国の「持続化給付金」の仕組みをそっくり真似して、加算した形だ。一方で、コロナ禍の影響で失業した人や経済的困窮者に対しては、社会福祉協議会から生活支援金を貸し付ける(返済義務がある)形となっている。

県内で同じような事業を進めているのは、長浜市長の藤井勇治氏だった。経歴を読むと、自民党出身者で元衆議院議員だった。佐藤市長も藤井市長も、後援会関係者からの要望で、「ばらまき」をしただけではないかと勘ぐりたくなる。

新型コロナウイルス感染のために苦悩しているのは、民間企業や個人事業者だけではない。医療や福祉、教育などの分野も困窮している。全てのニーズに応えることはできないが、それぞれの自治体が知恵を絞り、国からの交付金をどう活用するか、多くの市民が納得できるような采配が求められる。

各自治体がどう判断したかは、内閣府が公表した「事業一覧」(上記URL参照)で一目瞭然だ。芸術団体への支援、フリースクールへのマスク配布など、細かい目配りをしている自治体がある。その一方、大津市や長浜市のように「企業」にだけ手厚い例は、ある意味で突出している。

大津市はもともと、団体や企業への補助金に対するチェック体制が甘い。ウオッチドッグでは、「不正」ではないかと思われる実績報告者を度々、指摘してきた。今回の給付金も基準や審査の“緩さ”が際立っている。いかにも「大津市らしい」としか言いようがない。

↓経済産業省の「持続化給付金」についてのチラシ