大津市が住民が寄せた約1万5000筆の署名受け取りを拒否したニュースは、全国レベルで取り上げられた。前代未聞の出来事だった。しかし、ウオッチドッグが取材を進めると、「とんでもないことをした」という意識が、市職員らから感じられなかった。任意団体の大津市自治連合会と馴れ合ってきた歴史が長く、市民には背を向けてきた。誰のための行政かという意識が全く欠落していた。公務員としての感覚が麻痺していたのである。

住民の署名受け取りを拒否したのは、「大津市自治連合会から要請があったから」(越直美市長)という理由に尽きる。つまり、住民の声は聞こうとしないが、大津市自治連合会の言うことには従う。しかも、大津市自治連合会のだれから、いつ、どのような話を聞いたのか、口頭でなのか、文書でのなのか、忖度したのか、市民には全く説明がない。普段からツーカーなのだろう。「いや、住民の署名なので受け取りますよ」と反論さえしない。こういう関係は次のように表現できる。

大津市は大津市自治連合会の下部組織である。

大津市長や幹部職員は大津市自治連合会の下僕である。

今回だけでなく、ずっと昔からそうだったのである。署名受け取り拒否は、この構造をくっきり浮かび上がらせ、市民全体が知ることとなった。

この問題をメディア各社が報道し、市民から多数の批判の声が出た。「任意団体の大津市自治連の言いなり」という大津市独特の論理が、世間では通じないということが、初めて意識されたのかもしれない。大津市の市長や市民部長ら市幹部が、自治連の下僕と化している実態が、この問題で改めて浮き彫りになった形だ。「行政改革」を唱える越直美市長すら、メスを入れられないウミがそこにある。行政が一部の任意団体の言いなりになっている歪んだ状態を、監視し、是正させる役割を担うはずの、大津市議会や市政記者クラブの記者が、この問題を長い間、放置してきたという責任も大きい。

ただ単に、大津市政だけの問題ではない。市議会議員らも、市自治連とべったりとなり、選挙の組織票をアテにしてきた。報道機関は、住民の声を聞かない市自治連や学区自治連をヨイショしてきた。市長記者会見が毎月開かれているのに、鋭く追及しない。小役人根性の市幹部らは、強い者にはとことんへりくだり、弱い立場の者らをいじめ抜く。歴代市長の責任は重い。とりわけ、山田豊三郎元市長は24年もの長期にわたり市長として君臨し、当時の市自治連会長や幹部と一緒に、歪んだ自治会組織を作り出してきた。それを引き継いだ目片信元市長の責任も大きい。さらに、越市長も、こうした歪みを是正してもらいたいという市民らの期待を、見事に打ち砕き続けた。これらが複雑に絡みあって腐敗が熟成し、今の「大津市役所ムラ」が、出来上がったように感じられる。

時代は急速に変化しているが、大津市だけは取り残されている。任意団体の自治連らに追随する市長や市幹部、選挙しか頭にない議員、眠ったままの記者クラブの記者たちと一緒に、昭和の匂いが渦巻く「市役所ムラ」という壺から出て来ない。自ら出て来ようとしないなら、ウオッチドッグが外から「市役所ムラ」の壺を叩き割るだけだ。

※アイキャッチ画像は、山田豊三郎元市長の銅像。2011年当時の大津市議会OB会の会長が発起人となり、大津市の道路建設予定地に建立した。そのため、行政財産使用の申請先は、路政課になっている。大津市議会OB会の会長が銅像を建立する推進委員会の会長で、大津市自治連合会の会長が副会長に就任している。山田市政に、補助金支出などで、お世話になった団体、組織が軒並み委員として名前を連ねている。当時の大津市自治連合会長は今回、越市長に「学区ごとの署名を受け取らないように」と要請した谷正男氏。