ウオッチキャットです。
ウオッチドッグに頼まれた「権力vs調査報道」という本を紹介します。
この本で最初に取り上げたのは、朝日新聞記者として活躍した山本博さんへのインタビュー。山本さんは、リクルート事件や公費天国キャンペーンでの調査報道のエピソードを話されてます。
今から30年前の報道です。1988年の6月18日に朝日新聞が、リクルート社関連の不動産会社、リクルートコスモス社の未公開株が川崎市の助役(当時)に便宜供与を目的に譲渡されたことを報道。
「川崎市が計画した『かわさきテクノピア地区』へ、リクルートの進出が決まった時期に、同市の企業誘致の責任者だった助役が、リクルート側から関連会社の株式を店頭登録前に得て、株価が急上昇した登録直後の(昭和)61年末に売却、多額の利益を手にしていたことが、17日までの朝日新聞社の調べでわかった」という記事です。
ひゃあ、これは、企業誘致の行政責任者が、企業から贈収賄を受けていたということですな。ウオッチドッグ記者が調査していた大津市でも、やっていることはみみっちいですが、似たような事案があったようですよ。企業ではないですが、1億円以上の補助金を支出している自治会から、自らの料理代を支払ってもらい、コンパニオン接待を受けていた公金支出の責任者の副市長がいましたよ。各社から報道された後は、副市長を辞めて、古巣の国土交通省に戻りました。
あちらこちらで、今も昔もこんなことばかりやっているんですね。
1988年といえば、バブル真っ盛り。2017年に、大阪府立登美丘高校のダンス部が、バブル時代を模したバブリーダンスを披露して話題になっていましたね。ギラギラしたあんな雰囲気の時代です。日本中が「株、土地、カネ」の話題で浮かれていた時代です。ウオッチドッグ記者は、当時、20代だったそうです。えっ、あのウオッチドッグ記者にもそんな時代が・・。あんな髪型で踊っていたのかって? まさか、まさか。ウオッチドッグ記者は、当時から変わってましたから、休みになると、リュックを背負って、バックパッカーとしてアジアをウロウロし、面白いものを見つけては喜んでいたと聞きましたよ。それは、それは納得。
このギラギラした時代に、朝日新聞の山本博デスク(当時)と若い記者たちが、川崎市の政治とカネの問題を追及しました。その1週間後の6月25日に、「急騰のリクルート関連株 森元文相も売却益」という見出しの記事を出しました。森元文相とは、その後、首相まで上りつめた森喜朗元首相のことですね。現在は、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長をやっていますね。
「権力vs調査報道」では、1988年6月25日の朝日新聞の報道も紹介しています。
「(前略)リクルート側は前助役だけでなく、同様に76人に譲り渡していたことが24日までに明らかになった。自民党の森喜朗元文相をはじめ、政治家や秘書らの名前が出ており、森・元文相は事実を認めている。大半の人々は公開直後に一斉に売って巨利を得ており、リクルート側がなぜこうしたサービスをしたのかと、証券界では話題になっている」という報道です。
その後、朝日新聞のリクルート調査報道は、中曽根康弘、竹下登、宮沢喜一、安部晋太郎、渡辺美智雄など大物政治家の関与も次々と明るみにしました。この後、東京地検特捜部がリクルート本社などを家宅捜査したことから「刑事事件」になり、20人の政官財界人が起訴され(全員有罪)、竹下内閣が崩壊しました。45人の政治家に未公開株がばらまかれました。「戦後史に残る大疑獄だった」と本では説明しています。
山本博さんは、インタビューの中で「調査報道とは何か」を話してます。
「一言でいえば、『ジャーナリズムの公権力の監視』が調査報道のポイントです。(中略)イギリスの歴史学者のジョン・アクトン卿が言っていたように、『権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する』からです。北朝鮮を見れば、あるいは、この間のエジプトのムバラク政権を見れば、チュニジアを見れば、リビアを見れば、過去の歴史を遡ってみれば、このことは十分に理解できるでしょう。権力は腐敗します。それを監視していくのが、調査報道の根幹です」~「権力vs調査報道」P23より~
山本博さんは、リクルート調査報道の前に報道した「公費天国キャンペーン」についても話しています。
「鉄建公団の大規模カラ出張」、「ブルートレインのカラ業務」など。
大蔵省(現:財務省)を「腐敗の根源」と表現し、ノンキャリアの経理係長が、「カラはんこ」を押す不正経理をやっていたことを認める発言を聞き出したときのエピソードも披露しています。
調査報道に携わった記者たちとそれを取り巻く人々とのエピソード。今も同じことを繰り返しているんじゃないのと思う政治とカネの問題。山本博さんたちが活躍した時代から時が過ぎました。大津市政記者クラブの朝日記者(2015年~2017年)は、トホホな状態。求む、再び「公費天国キャンペーン」報道ですな。どこの誰が、中央政権の「権力の腐敗構造」を再び暴いてくれるんでしょうかね。
※元朝日新聞記者の山本博さんは、このインタビューの後、2013年7月4日、心不全のためお亡くなりになりました。70歳でした。ご冥福をお祈りします。