野口茂平からの告訴を受けて、宮武外骨は、一方では裁判、一方では報道と、徹底抗戦を開始した。明治34年11月20日発行の滑稽新聞第18号では、野口茂平の偽薬販売の詐欺行為を追及するため、2回目の報道特集を組んでいる。

「我社は、ことさらに大言壮語を弄して、一時読者の歓心を買わんとするが如き愚を学ぶ者にあらず。着々漸を追い号を重ねて正確の事実を録し、以て識者の判読に供へんと欲するなり」という言葉から始まり、「瞞着手段」、「偽善有口銭」、「他新聞の記事」、「野蜘蛛」、「両醜問答」と5つのタイトルで特集を構成している。

■「瞞着手段」

「売薬家が礼状を製造して世人を騙すことは、珍しくもないが、野口茂平は数百のインチキ売薬屋中、礼状製造においても抜きん出ていると主張。詐欺売薬の「肺労散」の広告「肺病新論」の中に記載の「全快者」というものが虚偽であることを明らかにするが、紙面の都合により次号に掲載する」としている。

■「偽善有口銭」

「茂平は、肺病には西洋医者に妙薬なし、肺労散は新病を根本的に全治する世界無二の新発見で慈善的な売薬と称していながら、不当不正な巨額の売価を貪っている。それだけでなく、昨今の新聞紙上に「取次は無料」として、3都市にある取次店を案内していたが、我社が「本当に無料か」と探りに行くと、売薬は買切にて、3割か4割引きのはずが、肺労散は、茂平からの預かりなので、2割引きという取次店の答えだった。これらも瞞着手段のひとつ」と取次店を調査した内容を掲載している。

■「他新聞の記事」

艸薬新聞第199号の記事を紹介している。要約すると、「野口茂平のような大阪市の名誉職(大阪市会議員)を担う人物が、決してこのような卑劣者ではないと信じたいが、肺労散の広告のようなものは、いかなる新薬を発明したのかと疑わしいものだ。しかも、その言葉の誇大なることや、昨今のあらゆる名医を罵倒し、他薬を非難するようなものは、社会を騙す最もひどいものだと言わざるえない」という読者の投書を転載している。

■「野蜘蛛」

読者の投書を紹介。「野蜘蛛(野口茂平のあだ名)が、市会議員になった時の運動実費の割前分13円(現代ルートで約52,000円)を出さなかったため、委員12名より絶交の決議をされた出来事があった」ことを紹介。僅か13円の割前を出さなかっただけでなく、人を突き倒して己を利するというとんでもないことをしているので、春元氏に対する悪事もこのことをもって推測できると述べている。

さらに、同業者間で使われている野蜘蛛というあだ名だが、「肺労散の広告で田舎者を餌食にするが如きは、昔、源頼光等が退治せし土蜘蛛にも勝る老怪物のようだ」と断じ、その様を得意の風刺画で表現している。

↓野口茂平を野蜘蛛にした風刺画

モオ何かかかりそうなものだ

(偽薬を売る詐欺商法の網をかけている野蜘蛛)

 

 

 

ソラ来た、旨い旨い

(網にかかった田舎者をおびきよせる野蜘蛛)

 

 

 

占め占め

(網にかかった田舎者を騙して、金を巻き上げる野蜘蛛)

 

 

 

最後の両醜問答では、大阪市役所の堀内氏から聞いたという記者の知人の投書を紹介している。

「去る16日(明治34年11月16日)、大阪市会開会の節、議員休憩室にて野口茂平と天川三蔵との談話を立聞せしに、

天川三蔵が「君、とうとう滑稽新聞を告発したな。あんまり大人気ないではないか」といえば、野口茂平は「それでも訴訟費用が50円(約20万円)かかった」
天「よせばいいのに、市役所でさえ官名濫用を打ち捨てて置いたではないか」
茂「でも、アレに書かれて以来、地方の注文が段々減った」

三蔵の「大人気ないではないか」の詰問に答ふるに直ちに「費用50円云々」を以てす。茂平の脳中金銭の外なきことをしるべし。
市役所云々のことは、本誌第3号の滑稽広告中に、公然、大阪市役所の名を書して風刺せし。当時、田村市長始め野田土木課長等が告訴せんかとの評議ありたるも終に見合わせとなりし事を云いしならん」

※【参照】記事中にある本誌第3号の滑稽広告とは、宮武外骨得意の風刺広告のこと。明治34年3月25日発行の滑稽新聞第3号の広告を指す。
「【広告】来月1日、当役所において、ゴマ河岸道路修繕工事請負入札を開催するので、入札希望者は、例の通り入札契約選任者の自宅へ、前夜までにコッソリ来て下さい。大阪市役所 」という風刺広告を掲載している。
この風刺広告を巡って、当時の大阪市長と土木課長らが、滑稽新聞社を官名濫用で告訴するかどうかを評議したが、結局、見合わせたというエピソードを第18号の記事に盛り込んでいる。

~「滑稽新聞」は、毎週水曜日に掲載~

 参照:滑稽新聞とは/コトバンクより
1901年(明治34)1月25日,宮武外骨が大阪で発行した雑誌型(A4判通常20ページ)の権力風刺新聞(月2回刊)。〈強者を挫いて弱者を扶け,悪者に反抗して善者の味方になる〉の発行趣旨のもと,権威をふり回す官吏,検察官,検事,裁判官,政治家,僧侶,悪徳商人,悪徳新聞に筆誅(ひつちゆう)を加え,詐欺広告やゆすりを告発するなど痛烈過激の記事を風刺画入りで満載したため,庶民の人気を集め,最盛期には8万部を発行したという。