ウオッチドッグは、市民が大津市に対して1.5億円の地区環境整備事業補助金(迷惑料)返還を求めた住民訴訟をめぐり、大津地裁の一審判決と、それを踏襲した大阪高裁の判決に焦点を当て、過去の大津WEB新報で調査し報道した内容と照らし、問題点を解説する。

高裁の判決は「控訴人ら(大津市民ら)が主張する個々の補助金の支出について、大津市長に裁量権の逸脱ないし濫用があったことはいえない」としている。

↓下記は、2019年(令和元年)8月7日の大阪高裁の判決文/6ページ

ウオッチドッグは、2019年2月21日の報道で、大津地裁の判決に疑問を呈した。

【争点①】大津市長の裁量の範囲は?/1.5億円の迷惑料訴訟/判決文を解読/ウオッチ大津№125

市長の裁量権の逸脱は「不合理、不公平な点があるとき」

大津地裁の判決文の中で、ウオッチドッグが特に引っ掛かった部分を赤色にした。

補助金の「公益上必要」かどうかの判断は、市長に裁量権がある。
・大津市が一般廃棄物処理施設の設置を進めるためには、周辺住民の理解を得ることが重要な課題である。周辺環境の保全だけでなく、増進にも配慮することも含まれる。それらは「公益」に該当する。
・住民の理解を得るために補助金を支出することは、市長の政策判断として尊重されるべきである。
大津市が設けた「基準」は、市長の裁量権の限界を決めるものではない。違反しても、裁量権の逸脱・濫用とは言えない。

平成31年(2019年)2月12日判決言渡 平成28年(行ウ)第5号 公金返還請求措置等請求事件

今回は、廃掃法9条4に基づいた「周辺環境の保全だけでなく、増進にも配慮することが含まれる。それらは公益に該当する」という、地裁の判断について考えてみる。

◆「周辺環境の保全」とは?
保全の意味は、コトバンクによると「保護して安全であるようにすること」。保全は、暮らしやすい安全な環境にすることで、こちらは、自然を保全し、住民の健康や安全に配慮するというイメージとなる。地区環境整備事業補助金の使途をこれだけに限定にしているのなら、わかりやすい。

◆「周辺環境の増進」とは?
コトバンクによると、増進の意味は、「物事の勢いなどがいっそう激しくなること」という。周辺環境の物事が、いっそう激しくなるような状態に配慮するというのは、どういう意味だろう? なかなかイメージがつかめない。

実際の迷惑料の使途から考えると、自治会館の建設、増改築や研修旅行や夏祭り、運動会など、「周辺環境の保全」とは全く関係のない事業を「増進」することを無理やり入れ込んでいるのではないか。廃掃法9条4の「増進」というあいまいな単語に、自らの都合のよい形で解釈したとしか考えられない。

つまり、「周辺環境の増進」というのは、判決文にも何度も書いてあった「「地域コミュニティ・世代間の交流」の増進のことを指しているのだろう。「地域コミュニティ・世代間交流」という不確かな実態のものを「激しくする」ために、1億円だろうが何だろうか、とにかく市長の裁量権を幅広く行使できるという都合のよい過大解釈が、今回の判決の根底にあると言える。

市長の裁量権の範囲について、大津地裁はこう記している。

「社会通念上不合理な点がある又は不公正な点がある場合でない限りはこれを尊重することが必要である」

つまり、社会通念上不合理な点がある又は不公平な点があったら、行政の裁量権を逸脱、濫用しているということになる。そのため、逸脱・濫用ではないと結論づけるためか、地裁の判決文は、「支出が不合理、不公平とまではいえない」というフレーズを繰り返していた。

↓大津地裁の判決文/平成28年(行ウ)題号/裁判所の判断/P45、地区環境整備事業い係る補助金支出についての大津市の裁量の範囲

ウオッチドッグは、わかりやすい例として、「香の里史料館」に関する部分を紹介する。

↓香の里史料館ホームページ
http://www.kaorinosato.com/

↓大津地裁の判決文/平成28年(行ウ)題号/裁判所の判断/P53、(史料館事業補助金)

赤線部分は、「不合理、不公正な支出は認められない」というフレーズ。

補助金による遊興旅行はOK?

大津地裁は、伊香立学区自治連合会が運営している香の里史料館に対し、大津市が毎年、迷惑料として支出している500万円は、「不合理、不公正な支出とはいえない」と判決を下した。同じく、迷惑料の自治振興事業費500万円も、「不合理、不公正な支出とはいえない」とした。

ウオッチドッグの前身「大津WEB新報」で、香の里史料館の補助金問題は何度も取り上げた。過去の報道を掲載する。

大津WEB新報は、補助金(税金)を使い、同じ場所へ下見を含め2度の研修旅行をし、バイキング料理や、観光農園での遊興を堪能した香の里史料館の問題を追及した。

これに対して、大津地裁の判決は、香の里史料館が、公金を使い、2回もバイキング料理をしようと、2回も観光農園に行こうとも、「1人1000円の参加費を支払っているのだから、不合理、不公平とはいえない」とした。

文化祭や夏祭りの飲食もOK?

大津地裁は、迷惑料が、文化祭や夏祭りの飲食関係に流用されていても、「地域コミュニティ・世代間交流の場としての役割を果たす機会と位置付けることができるから、不合理・不公正な支出であったと認められるものではない」としている。

一方、大津WEB新報(2016年2月9日付)は、迷惑料で学生の夕食代やアルバイト代、もちつき謝礼まで、夏祭り事業費として支払うのはおかしいと指摘していた。

史料館職員は2人だが、41人の旅行は名簿なしでOK?

大津地裁は、香の里史料館が、迷惑料を使って、ヤンマーミュージアムの黒田官兵衛博覧会への研修旅行をしたことを、「他の文化を学ぶことを通じて、伊香立学区の文化を理解する目的」であり、41人が参加していることを「学区の文化の理解を深め、地域コミュニティ・世代間交流の場としての役割を果たす機会」だと位置づけた。

地裁は、41人も参加していると評価しているが、大津WEB新報(2016年1月22日付)は、香の里史料館の職員は2人なのに、なぜ41人が研修に参加しているのかという疑問を提起した。入手した資料には、参加者名簿はなかった。

一方、香の里史料館の運営母体である伊香立自治連合会が、迷惑料を使い、市議会議員や支所長、自治連合会の役員ら計15人がビアパークや舟下りの遊興を楽しんだ後、昼神温泉ホテルで宿泊する研修旅行をしていたことを、大津WEB新報(2016年3月2日付)が報道した。

役員らが、自らの運営している香の里史料館の研修旅行にも参加していたら、同じ年度で、2重、3重に研修旅行を重ねていたことになる。大津地裁は、参加者名簿もない41人という人数だけで、「不合理、不公正な支出があったとはいえない」と判決している。そして、川下りなどに興じ、温泉宿に宿泊し、極めて慰安性の強い研修旅行をしている伊香立自治連へ、地区環境整備事業補助金を支出することは、「不合理、不公正な支出があったとはいえない」としている。

大津地裁は本当に、証拠資料を精査したのだろうか。

原告側の主張と、被告側の反論を、読み比べてみると…

香の里史料館への補助金を巡り、原告側の代理人、折田泰宏弁護士(京都・市民・オンブズパーソン委員会 代表)の主張と、被告側の大津市の代理人、谷口哲一弁護士(警察庁出身)の反論を、掲載する。読み比べてると…。

原告側
・史料館の目的は、文化・教育事業であり、生活環境保全の目的は全く存在せず、平成15年覚書にもない。

・大津市の財政負担も大きく、受益の範囲は学区以上である。

・史料館は、伊香立学区において一般施策とは別にかさ上げ措置として実施するものにすぎず、公平性に欠ける。

・自己負担率はわずか2.6%で地元負担はほぼない。

・史料館には、文化的な意味があるとしても、大津市の厳しい財政事情の下で税金を投ずるだけの緊急性、必要性は見いだせない。

・来館者数が少ないから、史料館に隣接する伊香立環境交流館の駐車場を設置する必要自体なかった。

・研修費としてヤンマーミュージアムへの入館料、昼食代、事業費並びに支出対象外とされる維持保守費・備品購入費、研修費広告料として史料館とは無関係なマラソン大会ゼッケン代、少年サッカー大会後援、備品購入代としてパネル・ポール、エクセルが含まれているが、いずれも公益性がない。

・平成28年度から駐車場の借地料は史料館の運営費から支払われるようになったのであり、別に補助金を認めていたこと自体おかしい。

被告側

・史料館施設管理運営事業は、平成15年覚書及びこれに基づいて締結された確約書に具体的に記載されているところ、史料館は伊香立学区の歴史や農村の暮らしを後世に伝えるとともに、学区外に対し広く地域の魅力を発信し、地域の活性化を図る目的で設置されている。

・受益の範囲は学区以上であり、地域活性化に資する事業の史料館が独自の財源を有していないことから、施設を運用するために補助金が必要不可欠である。

・駐車場用地借地事業は、平成15年の覚書に根拠するもの。同事業の補助金額は小さい。史料館の駐車場は2台を駐車できるのみであり、駐車スペースが不足していたため、史料館の駐車場を確保する必要性があった。

・平成26年度の研修は農業関連施設であるヤンマーミュージアムで他の文化を学ぶことを通じて伊香立地区の文化を深く理解するもの。平成27年度の研修は湖南三山で伊香立の歴史や文化を活かした町づくりを学ぶもので、いずれも史料館の存在目的に適うものであるから管理運営上不要な支出とはいえない。

・平成27年度の広告料は、史料館を広く学区外に宣伝して利用者を増やす目的で支出されており、管理運営上不要な支出とはいえない。備品購入費として、確約書に基づく協議の結果、補助対象となっている。

↓大津地裁の判決文/香りの里史料館へ年500万円の支出について/原告側の主張と被告側の反論