地域住民が求めるものは、「地域コミュニティ」なのか?
大津市の越直美市長は、「自主自立のまちづくりのために、公民館をより自由に使えるコミュニュセンター化にする」とメディアなどに説明してきた。
ウオッチドッグ記者は、市長のまちづくり構想は、机上の空論、つまり頭で想像しただけのズレたものだと感じた。
地域コミュニティを活発にする目的は、そもそも、何かあった時の相互助け合いのためだろう。行政だけでは、カバーできない部分を、住民の参加によって、できるだけ問題解決を自発的に図ってもらうためのものだ。
「防災や福祉」という多くの人の協力を得る必要が高い分野に、できるだけ多くの住民に参画してもらう。いざという時のため。それだけだ。そのために、よく知っている関係性、日頃からの良好なコミュニティが必要となる。
住民が自治会に加入して、強制的な行事参加を求められても従うのは、何かあった時に助けてもらえる、行政からの情報が入ってくるという漠然とした期待感からだ。
今回の市民センター統廃合の問題で、36学区の意見交換会や説明会では、「防災」や「高齢化」に関する意見が多かった。それらの分野への期待の比重が高いからだ。
新たなコミュニティや生涯学習を活発にするため、従来の公民館では、様々な催しが行われてきた。この公民館の取組みに対して、地域住民から、不平不満のような声を聞いたことがなかった。それなのに、なぜ、変えようとするのか。
少子高齢化の時代、高齢者施設も不足し、できるだけ地域でケアをという国の方向性が示されている中で、住民が市民センターに求める役割は、生活全般の相談ができる総合相談窓口であったり、身近なところでできる行政手続きであったり、保健や福祉を網羅した地域包括ケアの役割だろう。
市民センターという「社会資源」が身近にあるのに、それをわざわざ、住民が求めていない機能に変容しようとする。そこに反発が出ているのに、越市長はほとんど何も理解できていない。まるでおとぎ話のような世界観を振りかざしている。
今回の「記者が見た」は、地域活動のベースとなるはずの「大津市地域福祉計画」を紹介しよう。今から、8年前のことだが、当時、社会福祉を勉強中だったウオッチドッグ記者は、たまたま目にした「第2次大津市地域福祉計画」の市民公募の委員に応募して、選出された。
地域福祉計画は、社会福祉法の107条に基づき、策定は市町の努力義務としている。厚労省のホームページ(下図)で、地域福祉計画について言及している。
ウオッチドッグ記者も関わったこの第2次大津市地域福祉計画だが、全く自治会に浸透していなかった。2014年に自治会の役員になった時、他の役員らに聞いたが、誰も知らなかった。自治会どころか、支所にも「大津市地域福祉計画」の概要版すら置いていなかった。
ウオッチドッグ記者は、当時の計画の策定過程の中で、市が参考資料として提示した各課の高い自己評価に驚いた。ほとんど、「A」と「B」ばかりだった。「現場の評価と違う」と当時、ウオッチドッグ記者は、意見をしたと思う。甘い自己評価なのに、それを基に策定している計画だった。策定委員はほぼ毎回、同じ団体から選出されていた。1時間半から2時間ほどの会議に参加しただけで、当時で1回8,500円ほどの報酬費が策定委員に支払われていたと思う。
当時、会議で隣に座っていたのは、大津市自治連合会から割り当てられた某学区の自治連合会長だったが、ウオッチドッグ記者は、大津市自治連合会という組織が腐敗していると思っていなかったので、にこやかに談笑していた。今だったら、「あれ、どうなってますの?」と根ほり葉ほり聞くところだが。
この数年後、大津市の附属機関の各審議会へ、36学区の自治連合会長らが、市民団体枠で委員として入っていることを公文書で見つけた。短時間の会議に出て、ちょっと意見しただけで、報酬費(現在は9,800円)が受け取れるのだから、楽な仕事だ。ちなみに、ウオッチドッグ記者の隣に座っていた自治連合会長が、どの会に出ていくら受け取っていたのかを、2015年度分で計算したら、計約22万円を、審議会の報酬費として受け取っていた。
市民団体枠で各課の審議会に、必ず自治連合会長が独占して入っているのだから、市の職員も、自治連合会長らの顔色を伺うような関係性ができている。
つまり、毎回、ほぼ同じ団体、同じメンバーがこうした計画の策定に参加して、とりあえず作りましたという計画を作るが、住民には浸透していない。認知されているかを客観的に検証もしていないので、毎回、同じような課題と目標について、言葉を変えながら延々と繰り返している。
これが、大津市が策定した「地域福祉計画」だが、越市長は、地域自治機能として、将来的に、支所から市職員を引き揚げ、まちづくり協議会へ業務委託して丸投げする方向でいる。大津市ですら、毎回、同じ面々の策定委員が、市内部の甘い自己評価を基に計画書を作成しているが、これから地域で、誰が「まちづくり計画書」を作り、作った後はどう進めていくのか、まるで見えない。まずは、正しい地域の実情の把握と、計画が推進されているかどうかを含めた外部評価の機能を盛り込まないと、丸投げされただけの地域自治で終わる可能性が高い。地域コミュニティが混乱し、分断されるだけではないか。
↓大津市の越直美市長が2月1日に公表した新たな自治組織「まちづくり協議会」について
ウオッチドッグは、厚労省が、活発な福祉のまちづくりをしている11市町「地域福祉計画」の策定についてヒアリング調査をしていたデータを見つけた。11市町が、活発な地域活動をしているということで、厚労省でモデルケースにしたのだろう。そのうち、神奈川県の藤沢市と、長野県と茅野市の取り組みから、気になった箇所を抜粋した。他自治体と、大津市の進め方や、まちづくり構想と比較してみたら面白い。
↓厚労省データ「地域福祉計画の策定促進に関するヒアリング調査等の結果(11市町)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000525156.pdf
藤沢市の重点テーマのひとつは、地域活動の支援・担い手の育成等で、「地域活動を支える拠点としての市民センター・公民館機能等の充実」、「社会とのつながり・生きがいづくりの支援」を掲げている。
藤沢市では、市民センターと公民館を、地域活動の支援や担い手の育成など、地域活動の拠点として位置づけ、その充実を目標としていた。
藤沢市では、住民に身近な圏域での地域づくりと重層的な支援体制イメージで、市民センター・公民館を「地区福祉窓口」と位置づけ、地域とつなぐ役割として、専門職の「コミュティソーシャルワーカー」を配置している。
そして、地域を取り囲むように、行政や団体、医療や福祉機関などが「縁」となり繋がり、多機関の協働のイメージを図にしている。
大津市の9月市議会で、越市長が答弁した自治連合会をまちづくりの重要な構成団体、中心とする大津市のまちづくり構想とは、真逆の発想である。
次に、福祉のテキストなどでもよく目にする長野県の茅野市の地域福祉計画について、紹介する。かつて、数多くの市民が参加して作られた茅野市の保健福祉サービスセンターの取り組みが、国の制度に取り入れられ、地域包括支援センターのモデルとなったのは有名な話である。茅野市は、「福祉茅野21」や「やらざあ100人衆」など、市民の自発的な参加による地域福祉計画を実施してきた。福祉のまちづくりに重点を置いた茅野市の取り組みは、当時(1995年)の市長が、各地区で「市長と語る会」を開き、市長と住民の直接対話をしたことが発端と言われている。
茅野市のまちづくりは、大津市のように「市民センターを7つにしなさい」という越市長の鶴の一声で始まった「まちづくり構想」とは違う形で始まっている。市民センターの統廃合を水面下で進めながら、計画の全容を市民が知ることになると、住民への説明を部下に全て押し付け、36学区の説明会に一度も顔を出さなかった越市長の姿勢とは、雲泥の差だ。
◉茅野市(そのまま抜粋)
地区コミュニティセンターと保健福祉サービスセンターが連携しながら区・自治会の公民館などの施設を利用した身近な小地域での「福祉でまちづくり」を進めていきます。
◉茅野市(そのまま抜粋)
地区コミュニュセンターは、公民館ごとの福祉活動を活性化し、より身近な地域での市民主体の地域福祉活動を定着していきます。社会的な孤立や複合的な問題を抱える家族への支援など、様々な生活のしづらさを抱える個人や世帯を受けとめるセーフティーネットをつくっていきます。
◉茅野市(そのまま抜粋)
市民の中で誕生した「福祉21茅野」という有志の活動を中核にして、その輪は「やらざあ 100 人衆」というネットワークに広がりました。様々なテーマ別の専門部会ができ、活発に議論がされました。専門部会の代表が集い「円卓会議」を構成しました。誰が上でも下でもない、そこに集う人たちが対等な立場で話し合う場としての円卓会議が、やがて「地域福祉審議会」として位置づけられました。
この徹底した市民参加による話し合いの中で、身近な地域でのワンストップサービス(総合相談支援)の拠点として「保健福祉サービスセンター」ができ、「ケアマネジメント」という考え方を中心にすえた自立生活支援を試み、そのために多職種連携を進めてきました。
◉茅野市(そのまま抜粋)
保健福祉サービスセンターには、センター長のもとに市職員と市社協職員が配置され、センターの職員として互いに協働しながら、その人らしい生活を営めるよう支援していく「個別支援」と、そのような方々を地域で見守り支え合いをしていくようなシステムづくり「地域づくり」を業務として推進しています。、保健福祉サービスセンターと地区コミュニティセンターが連携し、相談支援ができる窓口設置を検討していきます。
◉茅野市(そのまま抜粋)
区・自治会 ( 5層 )、更に常会(6層)、隣組 ( 7層 ) で支え合いを進めるために地域のやる気、地域福祉を推進する市民力・地域力を高め、「日常生活支援ができる支え合いのコミュニティづくり」を進めることにあります。関係者が一緒になり、住民よる自発的な活動(インフォーマル)と民間事業者、社会福祉法人、事業所など公的なサービス(フォーマル)が協働して、個人や家族を支えるネットワークづくりが必要です。
◉茅野市(そのまま抜粋)
「行政アドバイザー制度」と研修
茅野市では、1997 年から専門的な知識と豊富な経験を有する専門家の支援による「行政アドバイザー制度」を導入し、現在も、法律、福祉、情報、会計・財務、教育の分野でお願いをしています。特に、福祉分野の市の職員、市議会議員、市民を対象に「ビーナスプラン研修」と銘打った行政アドバイザーによる研修を毎年実施しています。