大津市では越直美市長の記者会見が毎月1度、定例で開かれている。しかし、内容はお粗末過ぎると言ってよいだろう。市民の関心からはズレまくっている。

公人の記者会見は何のために開かれるのだろうか? 国のレベルに限らず、都道府県、市町村の首長も例外なく、定例記者会見を開いている。そこにはメディアの記者や、テレビ局のカメラが入る。何のために? 彼らは考えたことがあるのだろうか?

■台風21号直後の会見で沈黙

9月18日の市長記者会見の模様を見てみよう。
http://www.city.otsu.lg.jp/shisei/mayor/teireikisyakaiken/h30nen/20855.html#h_idx_iw_flex_1_1

越市長が会見の冒頭、台風21号の影響で記者会見を延期したことに触れ、「改めて台風21号で被害を受けられた皆さまに心からお見舞い申し上げます。大津市内においても、今回は非常に風の被害があり、全市的に倒木等が非常に多かったと認識しています」と述べている。

非常に強い勢力で本州に上陸し、記録的な暴風で近畿地方にも大きな被害をもたらした。大津市内では一部で約26時間停電した地域があったのに、市は警報発令中に警戒本部を解散してしまうなど、対応に疑問の声が上がっている。地域の住民主体で、大きな自然災害に対応できるのか、市民が不安になるのは当然のことだ。

台風被害への対応をどう総括しているのか、今後の計画にどう活かすのか、市民でさえ越市長の考えを聞きたいところだろう。しかし、会見で質問した記者はいなかった。越市長からの話題提供は「シェアリングエコノミー」。資料を配付し、延々と説明している。別にこの日でなくてもよいだろうに。

記者の側から、「そんな話題は後日にしてくれ」と言えるのに言わない。そもそも、大津市長の記者会見は、他の多くの自治体と同じく、記者クラブ(大津市政記者クラブ)が主催している。会見の中身は、メディア側が仕切らなければならないのに、市長任せになっている。

両者それぞれ、市民の関心をよそに、「シェアリングエコノミー」や、ふるさと納税など、聞いているだけで眠くなるようなやりとりをしている。京都新聞が辛うじて消防署のことを質問している。が、防災がらみの話題ではあるものの、台風21号と直接関連してはいない。

防災に続いて、市民の間で関心が高いのは、市民センター統廃合問題だろう。全36学区で市民との意見交換会が進行している。市民生活に直結する問題であり、市民の間には困惑が広がっている。

にもかかわらず、記者会見で越市長に尋ねる記者はゼロ。不安に思う市民のために、1つでも多く市長に問いただそう、そして、市長の発言を市民に伝えよう、という意志は、記者の間からは微塵もうかがえない。「大津市政記者クラブ」はその名の通り、大津市政のために存在するのだろう。

■市民の声は人づてに聞く

市民に寄り添う? 市長も、市政クラブの記者たちも、そのようなつもりはない。両者が寝ぼけたまま、漫然と記者会見に臨んでいるのである。市民から気持ちが離れているから、何らの痛痒も感じていないのだろう。

8月2日の記者会見では、その一端がうかがえる。
http://www.city.otsu.lg.jp/shisei/mayor/teireikisyakaiken/h30nen/19852.html#h_idx_iw_flex_1_13

読売新聞記者の質問を全文引用する。

 「市民センターの問題なのですが、市民への説明会がまだ途中段階ですが、進められていて、現状として厳しい声も相次いでいると仄聞しました。市長のお考えだったり、こういう意見が多いからこうしようかなど、まだ途中段階なので決まったことはないと思いますが、何かご感想等あれば教えてください。」

 市民の声を「仄聞(そくぶん)」した、と。記者は言葉のプロなので、誤用はあり得ない。「仄聞」とは「うわさなどで、少し耳に入ること。人づてにちょっと聞くこと」(大辞林)である。

大津市の市政担当記者は、市民に直接取材せず、うわさなどで人づてに、声を聞いている。市民への説明会は7月、大津市役所内で開かれている。この記者は、広報課の前にある市政記者クラブの部屋から一歩も外に出ないのか? 仄聞せずとも、直接、同じ建物の階段を上るか、降りるかして、会場に足を運べばよいではないか。

その程度のフットワークの記者が、街に飛び出し、市民の苦悩や不安、心配などを拾うことができるだろうか? ひと言でも生の声を聞いたことがあるならば、「厳しい声も相次いでいると仄聞しました」という質問をするはずがない。

■市長の問題発言に無反応

ましてや、メディアが権力を監視するという気は毛頭ないらしい。質問に「まだ途中段階なので決まったことはないと思いますが」とわざわざ付け加えて、越市長の顔色をうかがっている。

越市長はこのヤワな質問に呼応して「今の段階では、まだ決まったことは何もないです。私自身も直接お話をお聞きするというのはすごく大事だなと思っています。」と、しれっと答えている。寝ぼけた質問には、答える方もお気楽である。市民を愚弄する言葉だが、記者からの突っ込みはない。

市民センターを統廃合する計画を4年前以上から、強力に推し進めてきたのは、越市長である。越市長の意向は、内部文書にも明確に残されている。

https://watchdog-journalism.com/otsu92

http://otsu-shinpou.info/web/?p=12660

この夏まで市民に積極的に説明しようとせず、36の市民センターをいくつまで減らすのか、その数字を隠そうと画策していた。いまもって、具体的なセンターの名前を明らかにしてない。確固たる構想があるのに、市民には情報を開示してこなかった。

「まだ決まったことは何もないです」と、記者会見で平然と口にする越市長。これまでの経緯を知らず、問題発言だと反応できず、やり過ごしてしまう記者たち。記者会見の記録には、こうした両者の姿が残されている。

こんな市長に、こんな記者たち。市民の関心からズレまくる、市長記者会見はいつまで続くのだろう。

公人の記者会見は何のために開かれるのだろうか? 間違いなく、市民のためだ。