使われなくなった1,000本を超える有線放送の電柱が、16年以上も管理されず、大津市内に設置されたままになっていることが分かった。一部は電柱の間に電線(ケーブル)がつながったままになっている。電線は全長約97キロにも及ぶ。地元住民から「腐って危険な木柱がある」と指摘された例がある。しかし、滋賀県、大津市などの各関係行政機関は撤去しようとせず、それぞれが責任を押し付け合っている。問題になっているのは、旧「湖南有線放送農業協同組合」(代表理事:田中亥一氏)が設置した電柱と電線で、市内の瀬田や田上などの地域で広範囲にわたっている。

■経緯:1972〜2001年、有線放送で利用

旧「湖南有線放送農業協同組合」は、田上有線放送農業協同組合と瀬田町有線放送農業協同組合が合併して、1972年(昭和47年)に設立された。滋賀県からは設立認可、また旧郵政省から業務許可を受けて運営していた。当時の利用者の話によると、有線放送は、組合員同士の電話や、地域内のお知らせなどに利用していたという。団体は2001年4月に、加入者の減少などに伴い、有線放送の業務を休止した。2003年4月に臨時総会で、解散の動議をかけ、清算人を選出したが、解散登記や清算人に関する登記をしていなかった。

■現状:団体解散後、1,164本の電柱を放置

団体が放送業務を止めた後、電線も電柱も要らなくなった。しかし、計1,164本の電柱は撤去されず、電線とともに、公有地(487本)や民有地(677本)に取り残された。電柱につながれた電線は単線を中心に、全長97.4キロに及ぶ。こうした実態を、大津市は事細かに調査し、2011年6月に滋賀県へ報告している。これを受けて、嘉田由紀子知事(当時)は2011年10月に、運営実態がなく幽霊団体となっている団体に対して、解散命令を出した。しかし、県は解散命令を出しながら、使われなくなった電柱については、何の措置も取られず、放置されている。

各地に電柱を設置している関西電力では、全ての電柱を5年間のサイクルで点検していると説明している。NTTも委託業者に、電柱の点検を依頼しているという。ところが、旧湖南有線放送の電柱と電線は管理者不在で、点検されないままになっている。

2011年に市が作成した報告書によると、湖南有線の電柱が立っている地域は次の通り。

瀬田小学校区(大江町)
瀬田南小学校区(瀬田、神領、野郷原)
瀬田東小学校区(一里山、月輪)
瀬田北小学校区(大萱)
青山学区(桐生)
田上学区(稲津、黒津、石居、羽栗2丁目~、森、枝、里、関津、太子)
上田上小学校区(羽栗1丁目、堂、中野、芝原、平野、牧、新免)

■現場レポート:町のあちこちに電柱が乱立、電線も

2011年6月に大津市が作成した調査報告書(PDF)には、コンクリート柱410本、スチル柱30本、木柱724本が残されていると記録されている。ウオッチドッグ記者は、木柱108本が記録されている、青山学区桐生の一地域で現地調査したが、湖南有線の木柱は見つからなかった。地元住民の1人は、「いつごろか忘れたが、木柱は各自で処分してほしいと言われたので、自宅の庭にあった木柱を切った」と話している。

一方、田上学区を現地調査すると、湖南有線の木柱があちらこちらに、まだ点在していた。

 

 

 

 

 

(撮影日:2019年1月14日、撮影場所:田上学区内)

さらに、瀬田駅北口周辺でも、電線がつながった木柱やコンクリート柱があちらこちらに残されていた。

(撮影日:2019年1月15日、16日、撮影場所:瀬田北学区内)

■滋賀県、大津市の対応:「わからない」連発

管理者不在の電柱を撤去もせず、長年放置してきた行政機関の責任はどこにあるのかを取材した。

【滋賀県】

この団体を指導する立場だった滋賀県農政課の農業団体指導検査室(℡077‐528‐3813)は、こうコメントした。
「県としては、民(組合)×民(土地所有者)の問題として認識していた。県道にある電柱については、支障があれば撤去するということになっていた。農政課としては、活動している団体の指導にあたっているので、解散した団体の指導はできない。当時にどのような指導、協議されたのかは、昔のことなので、調べないとわからない。毎年、数件ほど、民地の電柱の撤去についての問い合わせが来るが、県としては対応できないので、それぞれで処分してくださいと伝えている」、「清算人が選出されたが登記はされていなかった。団体の財産がどのような処分をされたのかはわからない

有線放送の電柱が存在する県道を所管の大津土木事務所の管理調整課(℡077‐524‐2813)は、こうコメントした。

「大津土木事務所で働いていた昔の職員に確認したところ、かなり以前になるが、道路に倒れてきそうな状態の木柱があると聞いて、県職員がチェンソーで根元から切った。土中にあった木柱だった。1本ではなく、2、3本まとめて切ったらしい」

【大津市】

大津市民からの問い合わせが多く、過去の経緯を知っている農林水産課(℡077‐528‐2757)は、こうコメントした。
「有線放送電柱の(占有地)調査は、2009年、2010年に実施した。市民の方からの問い合わせもあったので、県に報告するため調査した。なぜ、それまで調査しなかったのかは、わからない。市道にある有線放送の電柱について、市民の方から危険箇所の通報があったら、路政課が対応している」

問題の電柱がある市道を所管する路政課(℡077-528-2858)は、こうコメントした。

「市道を管理しているのは路政課だが、撤去などの実際の現場の管理は、道路・河川管理課になる。知事が(団体に)解散命令を出して解散したことになっているが、清算手続きをしていないから、法人格としてはまだ残っている形になっている。そういう状況もあり、市のほうではなかなか撤去しづらい」

市道を点検する道路・河川管理課(℡077-528-2782)は、こうコメントした。

「数年前、田上の木柱1本を撤去した。市民の方から、電柱が腐ってきて危険であると通報が届いたから。木柱で土中のものだったので、それほど費用はかからなかったのではないか。単体の受注ではない。他の工事と一緒に、土木事業者に依頼したので、いくらかかったのかはわからない。この有線放送の電柱は、財産権が残されていると聞いている。市が撤去しても相手先(湖南有線放送農業協同組合)に請求ができないということもあり、危険箇所が見つかったものしか撤去していない。危険箇所が見つかった電柱について、市民の方から連絡を受けたら、現物を見に行く。危険であれば撤去して、そうでなければそのままにしている。定期点検のようなものはしていない。危険箇所が見つかった時だけ撤去することになっている」

かつて「湖南有線放送農業協同組合」に業務許可を与えた総務省(旧郵政省の業務引継ぎ)に、電柱放置について見解を求めた。

【総務省】

総務省の情報流通行政局の地域放送推進室(℡03‐5253‐5809)は、こうコメントした。
「放送法には、サービスが終了した後の電柱の撤去について、記載はない。道路管理者と事業者の問題になる。廃止の届け出は、近畿総合通信局へ出されていると思う。古すぎるので、あるかどうかわからない。本省には関連文書はない」

総務省の出先機関、近畿総合通信局の電気通信事業課(℡06‐6942‐8518)は、放送法と道路法について詳細な説明をした後、こうコメントした。

「電柱が残っているという話は初めて聞いた。探したが資料は残っていなかった。私どもの課には、放送事業を止めた時、「廃止」の届け出をしていただくことになっている。もし、届け出がなかった場合、事業者とやりとりが続くことになるが、それもないということは、「廃止」の届け出はあったかもしれない。しかし、文書の保存期間が過ぎているので、出ていなかったのか、破棄されたのか確認のしようがない。道路に占有物が残されていて、更地にするなどの現状の回復を望むなら、県や市は、団体に対して行政代執行もできたのではないか」

■【解説】誰の責任か? 誰が撤去するのか?

次ページでは、撤去費用と相談窓口についてウオッチドッグが取材した情報をまとめた。→

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