ウオッチドッグ記者は、鹿児島県警によるニュースサイト「ハンター」への強制捜査についての報道が明るみになった今年6月頃から各社の報道をウオッチしていた。数ある報道の中で、鹿児島県の地元紙(地方紙)である南日本新聞の報道内容を特に疑問に思った。そこで、過去に、毎日新聞社、共同通信社で記者をしていた「ウオッチドッグ」デスクに、地元紙の報道のあり方について疑問を投げかけた。

「ハンター」が2023年11月17日付報道で、鹿児島県警による捜査書類破棄の内部文書について大スクープした。しかし、南日本新聞は、この報道を追いかけようとしなかった。それはなぜなのか?

日本ペンクラブや日弁連、鹿児島県弁護士会ら外部組織が問題視した「家宅捜索」や「捜査書類破棄を促す内部文書」への抗議声明に関する記事を、南日本新聞は有料版扱いしている。これはなぜなのか?

南日本新聞社の報道(2022年9月28日~2024年3月15日まで)

2022.9.28   コロナ療養施設で女性看護師と複数回の性的関係 鹿児島県医師会の男性職員を停職3か月
2023.10.20   現職警官の強制性交疑い逮捕 鹿児島県警は会見開かず 撮影なしの記者レクで謝罪「会見の必要性は総合的に判断」
2023.10.27   【写真】警官逮捕時に記者会見する?しない?…不祥事続く鹿児島県警、クラブの質問に「具体的基準ない」[1] 
2023.11.23 有料版 相次ぐ警官不祥事…鹿児島県警トップ、県下署長会議で訓示「県民の協力得るには信頼に足る組織でなければ」
2023.12.13   元巡査長が13歳未満少女に強制性交 県警本部長が謝罪「県民に寄り添う警察活動を」 鹿児島県議会常任委 
2024.2.1  
2024.3.15   捜査資料がウェブメディアに流出、性被害告訴した女性など12人分の個人情報含む 鹿児島県警本部長「深くおわび」
ウオッチドッグ記者

南日本新聞の報道を振り返ろうと、ネット検索してみると、鹿児島県警の不祥事に関する報道は、今年3月15日までほとんど見当たりませんでした。昨年10月頃に、強制性交の疑いで逮捕された警察官の問題が明るみになったのに、県警が会見を開かないといった報道がありましたが、記事2本で追及終わり。12月13日に、県警本部長が謝罪したという記事を出していますが、驚くほど追及は弱いです。

ウオッチドッグ デスク

少なくともネットで検索できる記事はわずかです。紙面では、これ以外にどれだけ書いているのか、いないのか。いずれにしても、これだけ問題になっている問題なのに、市民が一連の報道をたどれる状態になっていないのは残念です。

昨年10月から11月頃は「ハンター」が鹿児島県警内部の文書を入手して報道していた時期。特に11月17日付の「捜査書類の破棄」が記された内部文書の報道は、「ハンター」の大スクープでした。今年6月になって、ウオッチドッグ記者は、「ハンター」の県警関連の過去報道をほぼ目を通しました。2023年11月17日付の「ハンター」の報道に出ていた内部文書の画像を見たときは本当にびっくりしました。この報道こそ、その後の強制捜査に繋がった記事なのかもしれないと思いましたので、「メディア遊歩道№12」でも解説しました。

この捜査資料(公文書)破棄を指示したとされる内部文書が明るみになったときに、日弁連などの外部組織が、こぞって鹿児島県警に対する批判や抗議の声明を出しました。しかし、南日本新聞は独自に批判していませんね。それどころか、外部組織の批判の声明文だけ、有料版の記事で見えなくなっています。

日弁連などの声明文に関する記事を有料版扱いにしているのは、まったく理解できません。担当者の判断なのか、上層部の判断なのか。それとも、あまり考えずにやっているのか。

今年4月8日に「ハンター」が鹿児島県警によって家宅捜索されました。翌9日の南日本新聞の報道は、警察組織が報道機関へ強制捜査したことを批判する内容ではなく、県警の警察官らの声を取り上げていました。ウオッチドッグ記者は、この報道を読んで、南日本新聞に対する違和感を強めました。南日本新聞は警察組織の“お仲間”ではないのか。「報道の自由」よりも、県警の顔色伺いを優先しているのではないか。そういう疑いを強く持ちました。

南日本新聞社の報道(2024年4月8日~7月14日まで)

2024.4.8   49歳巡査長が捜査資料漏えい スマホアプリで第三者に送信、鹿児島県警が容疑で逮捕 一部ウェブメディア掲載との関連性は「捜査中」
2024.4.9   「なぜ捜査情報を漏らしたのか」…現職警官逮捕に同僚ら怒りと恥辱「県民の信頼失い、正義は消えた」 鹿児島県警 
2024.4.16   現職警官が第三者に捜査情報漏えい、逮捕 県警本部長が謝罪「県民に多大な迷惑と心配」 相次ぐ不祥事に県議「組織的問題では」 総務警察委員会 
2024.4.19   現職警察官また逮捕 鹿児島県警、今月2人目 知人女性に不同意わいせつの疑い 51歳警部の男、容疑認める
2024.4.26   〈鹿児島県警巡査長逮捕〉漏えいした捜査資料がウェブメディア掲載と一致 
2024.5.14  
2024.5.21   漏えいした捜査情報は304人分…「見返り情報を得て、組織内の評価を高めたかった」 鹿児島県警、巡査長を懲戒免職
2024.5.21   県警トップが「前例ない」説明会見に立ったが、詳細は明かさず 被害者への謝罪手法も疑問残るまま 鹿児島県警・捜査情報漏えい
2024.5.30  
2024.5.31   納得できる県民いるのか…相次ぐ現職警官の逮捕は「コロナで人間関係が希薄になったのが一因」 鹿児島県警トップ、県議会で答弁 
2024.6.1  
2024.6.1  
2024.6.2   前最高幹部まで逮捕…止まらぬ県警不祥事に県民もため息 「市民感覚とかけ離れている」組織への信頼根底から揺らぐ
2024.6.5   〈独自〉漏えい情報は「鹿児島県警の捜査不正」を告発する内容か 逮捕された前・生活安全部長 幹部による警官事件隠ぺいなどの疑い 
2024.6.6   「本部長の職員犯罪隠蔽が許せなかった」情報漏えいで逮捕、送検の鹿児島県警前・生活安全部長 簡裁勾留理由開示で動機明かす 
2024.6.6  
2024.6.7   「本部長が県警職員の犯罪行為を隠蔽しようとした」前鹿児島県警生活安全部長の主張を否定も肯定もせず 県警本部長「捜査で確認行う」
2024.6.8   県警不祥事隠蔽「意図した指示一切ない」…本部長が前生安部長の主張を否定会見 県議会委は11日に集中調査
2024.6.8  
2024.6.9  
2024.6.11  
2024.6.12  
2024.6.14  
2024.6.14   〈独自〉漏えい情報は「鹿児島県警の捜査不正」を告発する内容か 逮捕された前・生活安全部長 幹部による警官事件隠ぺいなどの疑い 
2024.6.15   鹿児島県警が「違法差し押さえ」否定 福岡のウェブメディアに反論「捜査は適正。令状を提示、同意得てデータ削除」
2024.6.17   鹿児島県警、捜査書類の廃棄促す文書作成「再審で組織にプラスない」 大崎事件弁護団が「前例」示し抗議声明「無実の罪晴らす機会奪われる暴挙。許しがたい」
2024.6.20 有料版 鹿児島県警のウェブメディア家宅捜索は「権力の暴走」「民主主義の根幹脅かす」 新聞労連と日本ペンクラブが声明
2024.6.21   鹿児島県警情報漏えい 警官不祥事〝告発〟文書は、部長在任中に公用パソコンで作成か 逮捕の前部長は「トップの隠ぺい」主張、野川本部長は「指示一切ない」 |
2024.6.21   女子トイレでスマホ盗撮80回 勤務中、捜査車両使った時も…起訴された巡査部長を懲戒停職3カ月、本人は依願退職 鹿児島県警
2024.6.21 有料版 「捜査機関の意識の低さ露呈」 日弁連、鹿児島県警の〝捜査書類廃棄促す内部文書〟を批判
2024.6.22   納得には程遠い 鹿児島県警 相次ぎ食い違う主張…「どちらが真実か」「組織の擁護に終始」 本部長会見にも不信深まる県民は真相解明を求める 
2024.6.22  
2024.6.28   鹿児島県警・情報漏えい 法廷の場へ 犯罪経歴や捜査情報を福岡のウェブメディアへ渡したか 元巡査長の初公判は7月11日
2024.7.2 有料版 鹿児島県警の捜査書類廃棄促す内部文書は「証拠隠滅で言語道断。刑罰権の実現に反する」県弁護士会、会長声明出し批判
2024.7.6   不祥事相次ぐ鹿児島県警、ずらり並んだ本部長らに住民代表が苦言 求めたのは県民視点と透明性、管理職の教養充実 鹿児島市で警察署協議会代表者会議
2024.7.10   「地検捜査は不十分」鹿児島県警本部長を告発したが不起訴、検察審査会に不服申し立て 東京の出版社長
2024.7.10   不同意わいせつ罪の鹿児島県警・元警官に有罪判決 裁判官「よく考えながら行動するように」と説諭 鹿児島地裁 
2024.7.11   鹿児島県議会、「県警百条委」設置の結論持ち越す 最大会派・自民内に異論「捜査・裁判中で答え出ない」 
2024.7.11   鹿児島県警不祥事の真相究明はポーズ? 百条委設置、自民県議団が「待った」 総務警察部会が「設置は不要」と判断、一部自民県議は反発 
2024.7.12 有料版
2024.7.13  
2024.7.14  

7月になりようやく、南日本新聞では、警察官不祥事事件の検証記事を書き始めました。やらないよりマシですが、遅きに失した感があります。

市民から批判が届いたので重い腰を上げたのかもしれません。調査するのなら、「捜査書類の破棄」が記された内部文書を、誰が指示して作成したのか、そこも調べてほしいです。南日本新聞は、警察官の声を頻繁に記事で取り上げるほど緊密なのですから、この文書を作成した背景を探ってほしいですね。

報道機関は、警察の情報を少しでも取ろうとします。内部情報を真っ先に取ってくる記者は「食い込んでいる記者」、つまり「優秀な記者」として評価されます。しかし、批判するべきときは、報道で批判しなければなりません。それが報道機関の仕事です。そうじゃなければ、何のために警察内部に「食い込んでいる」のか。南日本新聞は本当に「ジャーナリスト集団」(社長のメッセージ)なのでしょうか。報道機関は警察組織のために存在するのではありません。南日本新聞には、読者・市民のために仕事をしてもらいたいです。

↓下記の文書画像は、鹿児島県警の「捜査書類の破棄」の内部文書(ニュースサイト「ハンター」の記事よりダウンロード)